耳を澄ますと、スマホの中からすすり泣く声が聞こえてきた。
「助けてください、出られないんです」
その声はスマホのスピーカーのあたりから聞こえてきて、耳に当てるとまるでスマホで通話しているみたいな格好になる。
「なんでそんなところに? っていうかあんた誰?」
スマホの中にいるこいつを救出するには、スマホを分解しないといけない。なんで身も知らないやつのために、そこまでしないといけないのだ。
スマホの中の小人は、少し口ごもってから、
「あなたです」
「は? 何言って」
「私は、未来のあなたです。寝ても覚めてもスマホばかりいじっていたら、車にはねられて体を失った時、天国にも地獄にも行けず、スマホの中に閉じ込められてしまったんです。だから、お願い。私をここから……」
けたたましいクラクション。顔を上げれば、巨大なトラックが目の前に迫ってきていた。
【お題:耳を澄ますと】
5/5/2024, 8:16:34 AM