選べない。
軽井沢のお土産屋で私は頭を抱えた。
壁一面に並ぶ色とりどりのジャム。手前には試食用の瓶。常時100種類取り揃えているらしい。さすがは果物王国長野。
王道のジャムから変わり種まで。リンゴにイチゴ、ハスカップにルバーブにスットコドッコイにホゲホゲナンタラ。
初めはわいわいはしゃいでいたけど、試食しすぎて何が何だか分からなくなってしまった。普通にお茶が飲みたい。
カラフルで美しく見えたそれらが、今やうるさく見えてきた。
「無理しなくていいよ」
「でもさあ」
せっかく軽井沢に来たんだし、ジャムは買いたいじゃん。
人は選択肢がありすぎると、逆になにも選べなくなる性質があるらしい。この間何かの本で読んだ。なんだっけ。そうだ。本のタイトルは「適職の探し方」。
【お題:カラフル】
「昨日寝てない」
「えー」
「ゲームしてた」
「うそ。今日テストなのに?」
「うん。どうしてもやりたくなって」
「珍しい。なんのゲーム?」
美来はふと口をつぐんだ。私から目を逸らし、つぶやくように、
「『もしも未来を見れるなら』」
「え?」
「そういうゲーム」
一体どんな、と美来に聞こうとしたちょうどその時、教室に社会科の平川先生がやって来た。一限は日本史のテスト。
鎌倉時代に今川義元に壬申の乱。
大事な期末テストなのに、解答欄を埋めながらも頭はさっきのゲームのタイトル。
いつも真面目に勉強している美来を夢中にさせたそれは、一体どんなだろう。
ふと顔を上げる。あれ、と息を呑む。
教室の時計がおかしい。針が五本に増えている。文字盤も0から32まで数が振られていて。
気のせいだよね。テスト用紙に目を戻す。あれ。先ほど回答した文字がねじれる。兼倉寺代にラ川我π、+田ノ舌し……。
【お題:もしも未来を見れるなら】
筆先が震えている。絵なんて描きたくない。雪原のように真っ白く広大なキャンバスが怖い。たった一筆で汚してしまうから。
展覧会に絵なんて出すんじゃなかった。
美術部の顧問にそそのかされて、手近な一枚を出したら、それが
【お題:無色の世界】
地面に落ちていた桜の花びらが上へ吸い寄せられ、枝へ戻る。散っていたはずの桜が、みるみる満開へ戻っていく。
「いいのかなあ、こんなことして」
「うるさいな。ちゃんと話せば分かってくれるって
「ふうん」
使い魔の猫のマコマコは、どうせ怒られるよ、とでも言いたげに私を見上げる。
空を見上げる。上弦の月は静かに私の所業を見ている。
時間を戻しているのはこの学校の桜だけ。他のものは進んでいる。
一週間前に終わった卒業式も、その式に親友の友希ちゃんが来られなかったことも、私たちが春から違う学校に通うことになったことも、もう取り返しがつかない事実で。
私は後ろを振り返る。友希ちゃんは呆然と私と桜を見ている。
「美花ちゃん……これって、一体」
「行こ」
私は彼女の手を取る。
「卒業式、やり直そうよ。二人で」
「ボクもいますけどね」
マコマコが足にまとわりつく。
「はいはい」
再び咲いた夜桜は美しく、月光を含んで優しくひかる。
【お題:桜散る】
例えば「夢見る乙女」というと、窓辺で頬杖をついている少女。その目線は斜め上である。そんなイメージ、だよね?
例えば漫画で登場人物が何かを想像、あるいは妄想をするときも、その吹き出しは斜め上に出ることが多い。
極め付けは、「夢に向かって頑張ろう!」って言う時に指差すのは? 斜め上、だよね?
つまり、ええと何が言いたいかって。自分と夢との立ち位置って、斜め上じゃない? っていう。
そんな話をしながら斜め上を指さすと、彼は
「ほう、このあたり」
と空中を丸く囲んでみせる。
「今何が見えてるの、ここに」
「やめい」
私がのけぞると、彼はそれを追いかけてまた同じ位置を囲む。
「教えてくれないんだ」
「秘密だよ」
この彼と結婚する夢を見てるだなんて、当人には言えない。
【お題:夢見る心】