あとで書く
お題:怖がり
星が溢れる。君の瞳から。
「なんかねえ、昨日から止まらないのよ」
「はあ」
スパンコールみたいなキラキラが、左目から右目から、ぽろぽろ、ぽろぽろ落ちてくる。
「なんでだろうね」
「やめなよ、目に傷がつくよ」
「だって」
目をこすると、星はパチパチと火花のように弾けて消えていく。
昨日夜通し泣いてたんでしょ。
憧れの人と同じ志望校に行けないって。
涙が枯れてしまったから、星がこぼれ落ちているのかもしれない。
「今日さ、パフェ食べに行く?」
「いらない」
「食べたいっていってたじゃん」
「食欲ない」
「行こうよお」
「えー」
君の取り繕う笑顔はぎこちない。
「なんか私、今日パフェ食べないと死にそうかも」
「死なないでしょ」
「いや、まじで。だからお願い」
それで君の悲しみが癒えるわけでもないと、分かっているけれど。
「食べに行こうよ、パフェ」
なんとかして溢れ落ちる星を止めてあげたかった。
【お題:星が溢れる】
願わくば、花粉のない日本へ。
そうすれば目を擦らなくてもいいし、目の周りが赤くならないし、目薬をささなくてもいいのだ、
電車内で、隣の席のヤンキーが「花粉やべえ」とか「薬飲んだのに」とか言いながら洟をかみ続けている。ヤンキーでも花粉には勝てない。
なんでだろうなあ。目には見えないのに。こんなに苦しい思いをするなんて。
【お題:安らかな瞳】
平穏な日々だと思っていた。
編み物の途中でふと顔を上げると、シャボン玉がひとつ、リビングに浮かんでいた。
庭でフーコが遊んだものが紛れ込んだのだろう。
違う。フーコはもう成人して家を出て行った。
雪雄さんが庭で洗車した泡が入ったのか。
それも違う。雪雄さんは今病院に行っていて。
近所の保育園から、でもない。あそこは移転して、今は灰色の月極駐車場になっている。
ふと気づく。家の中がしんと静まり返っていること。
子育てが終わり、平穏な日常を手に入れたと思っていたけれど。
こんなに空っぽだったっけ。
シャボン玉は音もなく、風もない中で、なぜか落ちることなく割れることなく、私とリビングの景色を映しながら、漂い続けている。
【お題:平穏な日常】
モンテカナゴ語で「愛と平和」と書かれたTシャツを着た社長が、僕の派遣契約の更新をするつもりはない、と言った。
「うちも厳しいんでね。まあユウちゃんは他のところでもやれるっしょ」
モンテカナゴの海で一週間焼けた社長の肌は健康そのもので、首元にはネックレスをつけていた形跡がある。そこだけうっすら白いのだ。
「あの、入った時は6ヶ月の更新だって……」
まだ3ヶ月なのに。
「あーね。うちも色々状況が変わってね。じゃ、午後の仕事もよろしく」
社長はそう言って休憩室に戻って行った。僕は小さな工場の裏でひとり立ち尽くす。
サヌルール・ダ・ポンポンテ。
愛と平和。
ほんとにそんなもの、あるのかな。
社長からもらったモンテカナゴ土産のナッツバーを、僕はひとりでかじった。
やっぱりコンビニおにぎり一個じゃ、お昼は足りないや。
【お題:愛と平和】