後で書きたい
【お題:絆】
大好きな君に、贈るものがない。
実はあったんだけど食べちゃって、ケーキ。
ケーキは美味しい。抗えなかった。
だからそもそも贈り物なんてなかったことにして、週末ちょっといいレストランでご馳走してごまかそう、と思っていたけれど。
「食べたでしょ」
なぜだ。包装紙は見えないように捨ててお皿も片付けて、もちろん口元に生クリームなんてつけてないか確認して、君の帰りを出迎えたというのに。
「なにを?」
すっとぼけてみる。
「ケーキ」
駄目だ。全部お見通しだ。
【お題:大好きな君に】
新シリーズのレンジャーは全員ピンクだって? オダイリサマーとカンジョもピンクで? 見分けつきます?
ラーメンが食いたい。
アルコールで朦朧とした頭でぼんやり思った。
街路樹にもたれて夜風を感じていると、居酒屋から聞こえる喧騒も、雑居ビルの光る看板も、どこか他人事というか、別世界で起こっていることのように感じられた。
その世界の表層に、落ちきれないかさぶたみたいに、俺の存在がぺらりと乗っている。そんな感じ。
「先輩、大丈夫ですか」
振り返れば、後輩の山越である。
「ラーメン……」
「ラーメン?」
「ラーメンが食いたい」
「飲み過ぎですよ」
この業界の経験年数は俺より半分なのに、俺より仕事ができる、K大卒のエリート。
「水飲みます? ベンチ座りますか?」
嫌な顔ひとつせず仕事をこなし、誰に対しても物腰は柔らかで、非の打ちどころのないヤツ。社内で彼を嫌いな人間はいない。
俺以外は。
「ラーメンだって、言ってんだろ」
コイツがこの部署に来たから、俺は飛ばされたんだ。
「何で分かんないかなあ。豚骨の、こってりの」
「どうしたんですか。なんか、変ですよ」
俺はコイツが憎い。顔を見るたびに嫌気がさす。コイツさえいなければ。
「違う違う、醤油だ醤油! さっぱりの、それでいて背脂たっぷりの」
何が一番嫌いかって、コイツを憎んでしまう自分自身だ。何も悪くない後輩を、こんな風に困らせてしまう自分自身だ。
「やっぱり塩みそ坦々麺ニンニクカラメ……」
「先輩」
山越が俺の背中に触れる。
「気を落とさないでください。僕、分かってますから。先輩がこの部署の誰よりも頑張ってたこと」
「うるさい!」
思わず彼の手を払いのけてしまった。
戸惑うK大卒の顔なんて、見ものじゃないか、なんて考えてしまう自分がいる。
ごめん。ごめん。そんなつもりは。
「ラーメン……食いたいんだよ……」
俺は最低だ。街路樹にもたれてうずくまる。
再び山越の手が背中に触れる。優しく背中をさすられる。
懲りないヤツ。
これじゃ、どっちが年上だか分からない。
【お題:たった1つの希望】
「ヒロくんって欲なさそー」
ハルカはキャッキャと笑いながら僕の肩を叩く。
「そうか?」
「なんかそんな顔してる」
「顔ってなんだよ」
「顔は顔だよ。行こ」
ハルカは僕の服を引っ張りゲームセンターの中へ進んでいく。
夜のゲーセンは一人だと怖いからついてきてほしい、と彼女に連れ出されたのだ。
目当てのぬいぐるみがUFOキャッチャーの景品になったから、それを手に入れたいとのこと。
ゲーセンのガチャガチャした騒音の中、ビカビカと派手に光る筐体の間を、彼女はひらひらと通り抜けていく。僕はその後ろに続く。
「友達にはさあ、オタバレしたくないし。なーんか丁度良いんだよね、ヒロくんって」
「あっそ」
彼女が屈託なく笑う。シャンプーの香りが鼻をくすぐる。
「あった! 良かった、まだ残ってて」
彼女は財布を取り出す。勢いよく開けたせいで小銭が散らばる。
「あーあー」
100円玉が筐体の下へ転がる。彼女は躊躇なく屈んで床に手をつく。
ゆるいTシャツの襟元がたわんで下着が見える。
欲がなさそう、か。
ないと思われてるのは、正直なところ、癪に触る。
「いいよ、拾うから」
「なんで?」
「いいから、どけよ」
「えー」
僕は拾った100円玉をハルカに返す。
「ありがと」
「さっさと取って帰るよ」
「イヤ。取れるまで帰らんし」
そりゃ、僕だって帰りたくないけどさ。
僕はまだ、彼女にとって優しい人間のままでいたかった。
【お題:欲望】