Morita

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「ヒロくんって欲なさそー」

ハルカはキャッキャと笑いながら僕の肩を叩く。

「そうか?」
「なんかそんな顔してる」
「顔ってなんだよ」
「顔は顔だよ。行こ」

ハルカは僕の服を引っ張りゲームセンターの中へ進んでいく。

夜のゲーセンは一人だと怖いからついてきてほしい、と彼女に連れ出されたのだ。

目当てのぬいぐるみがUFOキャッチャーの景品になったから、それを手に入れたいとのこと。

ゲーセンのガチャガチャした騒音の中、ビカビカと派手に光る筐体の間を、彼女はひらひらと通り抜けていく。僕はその後ろに続く。

「友達にはさあ、オタバレしたくないし。なーんか丁度良いんだよね、ヒロくんって」
「あっそ」

彼女が屈託なく笑う。シャンプーの香りが鼻をくすぐる。

「あった! 良かった、まだ残ってて」

彼女は財布を取り出す。勢いよく開けたせいで小銭が散らばる。

「あーあー」

100円玉が筐体の下へ転がる。彼女は躊躇なく屈んで床に手をつく。
ゆるいTシャツの襟元がたわんで下着が見える。

欲がなさそう、か。
ないと思われてるのは、正直なところ、癪に触る。

「いいよ、拾うから」
「なんで?」
「いいから、どけよ」
「えー」

僕は拾った100円玉をハルカに返す。

「ありがと」
「さっさと取って帰るよ」
「イヤ。取れるまで帰らんし」

そりゃ、僕だって帰りたくないけどさ。
僕はまだ、彼女にとって優しい人間のままでいたかった。


【お題:欲望】

3/1/2024, 1:47:41 PM