三行(サブ)

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12/2/2023, 6:36:52 AM

お月さんは一年をかけて、地球から一寸程度離れて行ってんだと。
わかるか?
あんなバカデカいモンでも一年ありゃ移動すんだよ。

いい加減、腹ぁ括れ。
行かず後家になっちまうぞ。
あんたは家柄も良いとこの嬢ちゃんだ。
その上別嬪ときた。引く手数多だろうよ。
その歳まで嫁入りしてねぇ方が珍しい。

だ〜か〜ら、俺は娶らねぇって。何回言わすんだ。

……そう泣きつかれたって俺にゃどうもできねぇさ。
ま、幸せにはなれんじゃねぇか。あん人ならおまえさんを養える。身分だっていい。見てくれだって悪かねぇだろ?

見合い、受けろよ。そんで、さっさと嫁いじまえ。
俺もそろそろ旅に出っからな。

はっはっ、言って無かっただけさ。そんな泣くなって。

まあ、たまにゃ会ってやるよ。
そ〜だなぁ……月があと五寸動いたときくらいには、帰ってくるさ。
幸せな嫁さんになれよ。

……応、元気でな。
ほら、もうお日さんが昇りかけてやがる。
この逢瀬も今日が最後さ。
抜け出してきてんのがバレねぇうちに、さっさと帰んな。

……嗚呼。じゃあな。








俺が迎えてやれなくて、ごめんなあ。
不甲斐ねえ。
好いた女に気持ちすらまともに告げられねぇなんてな。
返事も碌にしてやれねぇ男なんざ、やめておく方がいい。

一年で一寸遠のく夜の明かり、うんと遠くで照らす光と、あんた。
一際輝いて俺の目に映るのは勿論あんたさ。
旅に出て何に出会ったとしても、あんたほどの煌めきは感じねぇだろう。
……言うつもりねぇが。誰がんなくさいセリフ言うかよ。

例えとして出しちゃいたが、月がいくら地球から離れようと俺はいつまでもあんたを想っているさ。
それこそ、あのお日さんのように。

聞いたところによると、お月さんよりお日さんの方が遠いらしい。
別の場所に居たってこの気持ちは変わんねぇ。
俺があんたにしてやれることなんて、せいぜいこれからの幸せを願うだけさ。
俺は月にもお天道様にも願ったりしねぇよ。なるようにしかなんねぇからな。



ただ、帰ってきた時にも未だ嫁入りして無いなんてことがあったら、その時は俺が面倒見てやる。
だから旅に出んだ。この町を、出るんだよ。
昔の口約束を心の何処かで信じている、バカな男だよ、俺は。




「距離」2023/12/02

12/1/2023, 8:29:21 AM

私は泣き虫だ。
ちょっとしたことですぐ泣いてしまう。
昔からそうだった。
小学生の頃、教室の後ろに飾っていた花瓶を落としてしまい、怒られる前から既に泣いていた。
どうしよう、いけないことをしてしまった。怒られてしまう。
そんなことを思うだけで泣いていた私はとある日、クラスメイトに言われた。
「また泣いてる」「どうせ嘘泣きでしょ」
そんな言葉を。
きっと、私が泣く度にイライラさせてしまっていたのだと思う。

大人になる頃には、あまり泣かないように気をつけることができるようになってきていた。
それでも、たまらず泣いてしまう時はある。
そういう時、周囲の人にとても驚かれたりする。
泣かないで、なんて言葉は聞き飽きていたんだけれど。

「感受性が豊かなんですね」
そういって寄り添って、泣き止むまでただ傍に居てくれた人は貴方が初めてだった。
きっと、その時から惹かれていたのだろう。
「好きです」
意を決して発した言葉の主は、私ではない。
「僕でよければぜひ」
私の親友だ。
知っていた。2人が惹かれあっていたこと。
だから応援した。それぞれが、お互いを想って色々考えたりする姿を目の前で見てしまったら、そうもなってしまうのは仕方ないだろう。

「お、おっけーしてくれた…!」
「よかったね…!!」
「あはは、ほんと泣き虫ちゃんじゃん、なんでアンタも泣いてんのよ」
「ふふ、なんか嬉しくてね」

嬉しい気持ちは嘘ではない。でも、同じくらい寂しい気持ちになっているだけ。

「よし、飲みにいくか!」
「えっ彼氏は?置いてくの?」
「今日は今まで応援してくれたアンタにお礼!奢るからちゃ〜んと奢られてよね!!」
「うん…!」

深呼吸して、切り替える。
だって私、2人とも大好きだもの。






「泣かないで」2023/12/01

11/25/2023, 3:05:13 PM

太陽の下、元気に今日も活動する。
私はスポーツをしていた。
今じゃもうそんなのできやしない老耄になってしまったけれど。
でも、大好きな夫と公園に赴き、朝の体操をすることが日課だ。
寒い日も暑い日も、毎朝行っている。
ラジオ体操を流し、一生懸命に取り組む。
これが意外と体のあたたまることといったら。汗もかいっちゃうくらいだわ。
そんな中、高校生が寒そうに歩いていく。
きっと部活動か何かだろう。
あまりにも寒そうにしている姿を見ると、声をかけたくなってしまう。
そう思うと同時に、これがおばちゃんになったってことかなあ、なんて歳を感じたり。
余計なおせっかいというものだろう。

「ああやだわね、気をつけなくちゃ」
「何がだい?」
「ほら、あの子寒そうにしているでしょう?何か差し入れになるようなものあげられないかなあ、なんて思っちゃって」
「……不審者になってしまわないか?」
「でしょう!?だから気をつけなきゃね、と思ったの。ところで今日は何が食べたい?」
「君の作るものなら、なんでも食べたいなぁ」

今日も、なんでもない会話を繰り広げる。

寒さなんて吹っ飛ばしてしまえるのは、体操だけのおかげなんかじゃ、ないのかもしれないわね。

そんなことを思いながら、帰路につく。