三行(サブ)

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お月さんは一年をかけて、地球から一寸程度離れて行ってんだと。
わかるか?
あんなバカデカいモンでも一年ありゃ移動すんだよ。

いい加減、腹ぁ括れ。
行かず後家になっちまうぞ。
あんたは家柄も良いとこの嬢ちゃんだ。
その上別嬪ときた。引く手数多だろうよ。
その歳まで嫁入りしてねぇ方が珍しい。

だ〜か〜ら、俺は娶らねぇって。何回言わすんだ。

……そう泣きつかれたって俺にゃどうもできねぇさ。
ま、幸せにはなれんじゃねぇか。あん人ならおまえさんを養える。身分だっていい。見てくれだって悪かねぇだろ?

見合い、受けろよ。そんで、さっさと嫁いじまえ。
俺もそろそろ旅に出っからな。

はっはっ、言って無かっただけさ。そんな泣くなって。

まあ、たまにゃ会ってやるよ。
そ〜だなぁ……月があと五寸動いたときくらいには、帰ってくるさ。
幸せな嫁さんになれよ。

……応、元気でな。
ほら、もうお日さんが昇りかけてやがる。
この逢瀬も今日が最後さ。
抜け出してきてんのがバレねぇうちに、さっさと帰んな。

……嗚呼。じゃあな。








俺が迎えてやれなくて、ごめんなあ。
不甲斐ねえ。
好いた女に気持ちすらまともに告げられねぇなんてな。
返事も碌にしてやれねぇ男なんざ、やめておく方がいい。

一年で一寸遠のく夜の明かり、うんと遠くで照らす光と、あんた。
一際輝いて俺の目に映るのは勿論あんたさ。
旅に出て何に出会ったとしても、あんたほどの煌めきは感じねぇだろう。
……言うつもりねぇが。誰がんなくさいセリフ言うかよ。

例えとして出しちゃいたが、月がいくら地球から離れようと俺はいつまでもあんたを想っているさ。
それこそ、あのお日さんのように。

聞いたところによると、お月さんよりお日さんの方が遠いらしい。
別の場所に居たってこの気持ちは変わんねぇ。
俺があんたにしてやれることなんて、せいぜいこれからの幸せを願うだけさ。
俺は月にもお天道様にも願ったりしねぇよ。なるようにしかなんねぇからな。



ただ、帰ってきた時にも未だ嫁入りして無いなんてことがあったら、その時は俺が面倒見てやる。
だから旅に出んだ。この町を、出るんだよ。
昔の口約束を心の何処かで信じている、バカな男だよ、俺は。




「距離」2023/12/02

12/2/2023, 6:36:52 AM