#19 イントロ
そうやって足音だけで賞賛を送るから、優劣をつけるから
正義のヒーローは歩けなくなったよ
ねぇ、本当の優しさの奥に何を見てんの?
#18 残暑の中心で泡だらけのアルコールを
「春と秋どこ言ったん?」
夏終盤、のはずのコンビニ帰り。「まじで」と付け足して唸る
こいつの背中をアスファルトを蹴って追っている。
目の前で揺られてるコンビニ袋には適当な夜ご飯と缶ビールが透けて見える。そんなことも忘れたのかまたこいつは
大きく袋を揺らすんだけど気づいても何も言ってやんない。
その上こいつは「これが地球温暖化ってやつですか」
とかまた的外れなことを抜かしやがる。馬鹿な癖して頭良さげに憎まれ口を叩くこいつと世間のヤツらを並べてコケにするのがスキップでこいつの後を追うこの私ってわけなんだ。
最近のお偉いさんは皆、お馬鹿さんだ。お偉いさんだけじゃない。メディアを全部全部鵜呑みにするお前らもだ。
朝のニュースでもなんでも地球温暖化だCO2だって馬鹿の一つ覚えみたいに言って世間は頷いても節電はしない。
けど私はそんな文句を言いたい訳じゃない。正直ただ皆の知らないことを知ってるなんて言う優越感に浸ってるだけなんだ。
だってこの暑さは地球温暖化でもなんでもない、あるポンコツな魔女のたった一つの失敗なんだから。
そのあるポンコツな魔女が知ったかぶりする世間を優越感で馬鹿にするなんていいご身分だと我ながら思うが生憎、戻す魔法も知らないんだからしょうがない。
夏が終わらない。
それは幸せな事だと思ってた。なのに結局、私たちには熱帯夜に溺れて文句を吐く現状しか残んなかった。
けどそんな文句を言ってくだらないことで笑えるのが意外と心地よかったりするんだって失敗したから気づけたよ。
とは言いつつも暑さの代償は大きい。
ハロウィンを取り戻す魔法をまた練習しないと。
#17
拝啓、敬愛なるサン・テグジュペリ様、並びに本好きな誰かへ
星の王子様で星空が綺麗なのはこの広い空には王子様の星が隠されててそこには小さな1輪のバラがあるからだって知った
けど、私はその薔薇に懐いたわけでもないから、まだ星空が綺麗には見えなかった、あなたが死んじゃうまでは。
私が初めて星の王子様を呼んだのはあの事故から
1ヶ月たったか経たないかぐらいだったかな
何度も泣いて泣いて空なんて上なんて全然見なかったのにさ
あなたが残したたった一冊の本でこんなに空をみるようになるなんて思わなかった。星の王子さまと違って隠してるのは星でも薔薇でもないからさ昼の空も朝焼けも綺麗に見えるよ。
綺麗に見えるのに、こんなに滲んで見えるのはなんでだろう。
♯16 愛を歌わないで
君は今や世界中に名を馳せるバンドマンになった。
だからあの時に戻りたいなんて思うのはきっと私だけなんだ。
君は1万5000人の武道館が好きだろうけど私は君と2人の狭いアパート好きでさ、心を震わすような歌声より下手くそで、突っかかりながら歌ったあの弾き語りが何より好きだったんだよ。
いくら関係性が変わらないからってさ距離が変わらないことは神様も保証してくれなかったよね。
ねぇ今、君から見える景色はどんななの?
やっぱり1万5000人の内の1人でしかなくなっちゃったの?
私はあの時のが好きだったけど、あの時より100倍楽しそうに笑う君がステージの上にいるからさ、何にも言えないよ。
けどやっぱり本当はまた下手くそなギターが聞きたいよ
#16 辞書をなくしたルサンチマン
今まで私が出会った物には全部名前があった。
チョコも傘も憎しみも悲しみも、
だから、こんな惨状を前にひたすら口を開けずにいる。
〝こんなはずじゃなかった
もっとこんな感じのはずで
あの子みたいになれたら 〟
って思っても体が動けなくて
何にも出来なくて、自分に抱いた嫌悪感とか劣等感はまた違う
よどんだ感情に濁されて1人で沈んでく。助けてくれよ
けど「助けて」って言ったらさ「どうしたの?」って話を聞いてくれんのが優しさなら、助けてなんて余計言えないよ
言葉に出来ない死にたさがまた首を絞めるんだね
いつになったら、あの子みたいに笑えるんだろうね
今日だってほら、くだらないことばっか言葉を紡いでる
大事なことはいつだって言葉に出来ないのにね
ずっとそんなままで結局何を求めてるの?
承認欲求なんて一時的だって早く気づけよ
書くのが好きで楽しくて始めたはずだったのにさ
いつから劣等感から逃げるための苦行になったの?
誰がしたんだよ。