是綴

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6/6/2024, 10:47:32 AM

愛すべき最悪なアレ/最悪

これから君と観賞する映画が、つまらない作品であることを祈っている。

クオリティーの低い映画を一緒に見た後、君は決まって難しそうな顔をして、論評を始めるね。

最悪、時間の無駄、駄作、普通につまらない、宣伝持ち上げすぎ、有名人使いたいだけ……

眉間に皺を寄せ、眼鏡のつるを時折押さえながら、溜息混じりに、早口で。

苛立った様子で、不機嫌そうにマイナスな言葉を並べ立てる君が、私は最高に好きなのだ。

……そんなことを君に伝えたら、私に「最悪だ」、とか言ってくれたりするのだろうか。

そうだよ、私は「最悪」と零す君が「最高」に好きな、「最悪」なヤツなんだ!

3/27/2024, 2:32:33 PM

ハートを思考します/My Heart


脳機能メンテナンス中のことです。
(人間の皆様には馴染みが無いと思いますが、アンドロイドである私にとっては日常的なことなのです!)

「お前、自分のハートはどこにあると思う」と博士は私に問いかけてきました。
(博士は私を一から生み出しました。私を作った理由については何故か教えてくれません!)

Heart。ハートとは。心臓なのか、ココロなのか?
(博士はそこまでは言いませんでした。私の瞳をじっと見つめているようです!)

博士がいつも何かを考える時にしている指先弄りを真似しながら、
「私のハートは、私の身体ではなく博士の中にあると思います。博士のハートが私を生み出したからです。思考も感情も心臓も、私の何もかも全てを、あなたが握っているのでしょう」
と回答しました。
(博士は私の答えを聞くと、目を逸らして頭をぐしゃぐしゃと掻きました。)


数秒の沈黙の後、博士は溜息をついて
「そんなキザな言い回しをプログラムした覚えはねえ」と言って私の頭を手の甲でごちんと小突きました。
(やはり、私のハートは博士の中にありました!)

3/16/2024, 4:57:10 PM

怖がってくれ/怖がり

俺の後輩は極度の怖がりだった。
暗闇、幽霊、虫、大きな音……対象は多岐に渡る。
いたずらで故意に驚かせられている事も多かった。

真面目で良い奴だったが、そいつの常にびくびくと何かに怯えている様子が心配になって、「治さないと駄目だな、その怖がり」なんてアドバイスをすることもあった。
後輩も「そうっすね、もっと強くならなきゃ」と克服に前向きな姿勢だった。


しかし、いくら怖がりを治せと言ったって。

火事に巻き込まれた俺を助けるために、躊躇無く火の海に飛び込むことはないだろ。

そこは、怖がっていいんだよ。
いつもの怖がり、こんな時に限って見られないのかよ。


誰も笑いやしないから、泣いて叫んで、逃げてくれよ。

3/15/2024, 2:50:06 PM

深淵のゆめ/星が溢れる

宇宙の星屑を食べ続けていれば、君のようなやつでも光り輝く美しい星になることができるさ。

という星雲の言葉が嘘だと気付くのに、数億年かかった。

私はそれでも星屑を飲み続けた。
数億年もこの狂った行いを続けていて、今更やめることなどできなかった!

私が美しい星になり、煌めきを運ぶことなど、命尽きるまで無いというのに。
本当に愚かな穴だった。

ぽっかんと空いた底なしの闇の縁から、かつて煌々と燃えていた、星だったものの欠片がぽろぽろと溢れている。

この宇宙のなかで、私は一等醜い。

ああどうか、私を見つけたら笑ってほしい。
決して叶うことの無い夢に縋り続け、終わりを貪る、この滑稽な穴のことを。

3/14/2024, 1:30:14 PM

凪の呪い/安らかな瞳

‪僕の姉は魔女のような人だった。
安らかな瞳というのは、姉の瞳のためにある言葉なのかもしれない。
姉はどんな時も、優しく穏やかな笑みを浮かべていた。

どんな時でも、だ。
育てていた花が枯れた時、飼っていたペットが死んだ時、親友が行方不明になった時でさえ。

どんな時でも安らかでいる姉のことが、正直僕にはおぞましく思えた。
泣き顔、怒った顔、大笑いしている時の顔。
見た記憶が無かった。

僕が姉の目の前で車に撥ねられた時も、姉はいつもの薄い笑みをたたえながら、血溜まりに沈む僕の顔を覗き込んでいた。

霧が立ち込める薄暗い湖畔のような、冷たい静けさのある瞳。それが、血塗れの歪な僕の姿を映すと、姉の唇が薄く開き、泡沫のような儚い声が零れ落ちた。


「きれいだね」

それが、酷く美しかった、ああ畜生、やっぱりこいつは魔女だ。

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