誘人灯 / きらめき
あなたが、真夜中の森にどうしても足を踏み入れるというのなら。
決して、自分が持つ灯りの輝きしか信じてはいけないよ。
きっと純粋なあなたのことだから
淡くきらめいて浮遊する光を、蛍だと思って追いかけて、捕まえようとしてしまうし、
きっと単純なあなたのことだから
遠くに見える色とりどりの光を、街の明かりだと思って安心しきって、真っ直ぐに光のほうへ向かうだろうね。
森の光は、皆等しく虚だよ。
幻の煌めきにつられた人間を、夜の森は決して離しちゃくれないから。
……って、忠告しておいたのに。一応。
あいつのことなら / 些細なことでも
!探しています!
どんな些細なことでも構いません、この男性についての情報をお持ちの方がいれば、ご連絡ください。
身長は189cm、痩せ型で、野菜が好き。
服はパーカーにスウェットとか、ラフな物をよく着てた。
「おやすみ」って言う時の声が低い、「おいしー」って言う時の声は可愛い。
髪は薄茶色、私が先週染めた。
あいつは「俺には似合わないでしょ」って笑ってたけどめちゃくちゃ似合っ―――
おい、あいつのこと、誰も見てないはずねえだろ。
些細なことでもいいって言ってんだ、
あいつの後ろ姿でも声でも影でも気配でもいい、なんでもいいんだって!
なんでもいい、なんでもいいから、くそ、なんで、
だって、だってあいつは、昨日まで私と、
灯台下暗し / 心の灯火
小さくあたたかい火が、灯ってしまった。
無愛想で、無感情で、いつもつまらなそうにしていて、
それが酷く美しくて愛おしかった、あの子の心に。
返せ、返せよ、美しかったあの子を返せ。
消してやればいいんだ!
あの子の家族、友達、宝物、全部、全部全部!
全て消したはずだった。
けどどうしたってあの子の灯火は消えなかった。
「ねえ、その火、誰のせいなの」
そう問うと、あの子はにこりと笑って(似合わないね)、
私の胸を、人差し指で突いた。
黄泉たくない / 開けないLINE
「サイトウ が画像を送信しました」
という通知の後、
「おいこっち地獄なんだけどwヤバすぎ!暑すぎかってw」
「お前は絶対こっち来んなよw」
という通知がスマートフォンに入った。
サイトウは私の親友だ(親友だった)。
なのに(だから?)、私はそのメッセージを開くことができないでいる。
この前、お前の骨を拾ったばかりだぞ。
その画像、何が写ってんだよ、なあ、おい。
なんでもない同士のための / 鐘の音
「別にさー、恋人同士でしか鳴らしちゃいけない決まりなんてないよねえ」
海の見える丘に設置された、小綺麗な『恋人たちの鐘』。
……を、ハチャメチャな勢いで豪快に鳴らした、男友達。
「うるせっ」
甲高い、ふざけた調子の鐘の音が、海辺の公園に響き渡る。キンとした音に思わず顔を顰めれば、あいつは俺の顔を見るなりカラカラと笑った。
「もう一回、僕と一緒に鳴らしてよ」
「なんの意味が?」
「君の面白い顔が見れるでしょ」
「……お前の面白い顔も見せろ!」