高く高く
バーを超えて眼前に広がる青の美しさを僕は知っている
高く高く
青に届くくらい高く
青に溶けるくらい高く
僕の背中には翼がある
放課後
人がまばらな校庭の部活終わり、君はシューズを履き替えて最後にグラウンドを一周する。
走るたび走るたび影が伸びて夕日が傾いて
走り終わる頃を知っていたかのように自転車を連れてくるあの子がきっと笑いながらタオルを差し出すと
君は遠くからでもわかるほど嬉しそうに笑う
自転車の前かごにギュウギュウに詰められた君とあの子のかばん
グラウンドでは一つだった影が
校地を出る頃にはみっつになって
心の中でそっとエールを送りながら今日も自分の居場所に戻る
ただそれしかしないから
できないから
君たちがこの箱の中にいる間だけはこうして 見守らせて欲しい
カーテン
自分でいうのもなんだけど、僕はいわゆる温室育ちだったんだと思う。
カーテンの丈なんて全部一律だと思ってた。
というわけで今僕はカーテン売り場の前で固まっている。こんなに種類あるの? なんか気に入った柄を買えばいいと思ってきたのに。カーテンレールの位置まで気にしなきゃいけないの? そんなんいちいち覚えてないって。
でもここで店員さんに「あのー、ふつーのアパートなんですけど大きさどれですかね?」なんて聞いたらアホの子みたいに見られそうだしなあ。ていうかそもそもアパートに普通とか普通じゃないとか存在するのかな。もしかしてカーテンにこんなに種類があるんだからアパートにも種類があったりする?
あ、まずい。
流石に長くカーテンの前に居座り続けすぎた。視界の橋にさっきから店員さんが見える。
ウワーでも今ここから動いたら後日この店に入れるのかな? 入った瞬間お帰りくださいとか言われたりしない?
カーテン…カーテンくらい大きさ統一しろよ! 1種類でいいじゃん大きさなんて!! アパート用カーテンこちらとかそういう売り場作ってくれよ!
「あのう」
あーーーー!!!
終わったこの店出禁だ!!!
「もしよろしければ、簡易なものではございますがこちら紙製のメジャーをご利用になりますか?」
「…エっ?」
「あ、いえ、差し出がましいようですが、サイズをお悩みになっているご様子でしたので…ご家庭にメジャーがお有りでしたらそちらで計測されたほうが正確だと思いますが」
…………メジャーで測る…のが必要なものなのか、カーテンって。
冷蔵庫洗濯機のためだけだと思ってた。メジャーなんて。
「…長さってどれくらいが良いんでしょうかね?」
「そうですね、一般的な窓ですと床から1-2cm離れる長さがちょうどいいと思います。窓のタイプによって多少変わりますが、」
そこで店員さんは手に持っていたファイルから一枚の紙を差し出してくる。
「こちらを参考に計測していただくと、カーテンとしての役割を果たせられると思いますよ」
紙にはいろいろな窓のタイプとそれにあったカーテンの長さがイラストで説明されている。
「カーテンって悩みますよね」
にこっと微笑む店員さん。
なんだこのひと…天使か? 心が読めるのか? まさかカーテンの権化?
ありがたく紙と紙製のメジャーをもらってアパートに戻る。
窓の大きさは「一般的な窓」欄に掲載されている大きさだったけれど、この紙…いや、神と神製のメジャーがなければそんなことすら分からなかった。
一応日を置いて店に再入店した。出禁がちょっと怖かったから。
無事にカーテンは買えたけれどあの店員さんはいなかった。
やっぱりあの人はカーテンの権化だったのかもしれない。
涙の理由
仕事からの帰り道、信号が赤になるのをぼうと眺めていたらぼたぼたと水が落ちてきた。
雨も降ってないのにと思ったら信号の赤が滲んでいる。
ああこれ涙だ、
気がついたときには信号が青に変わってクラクションが後ろで鳴った。
加速する車と拭っても揺れる視界、意味もなく、わけもなく、とめどなく。
その日を境にそんなことがだんだん増えて、
それは仕事からの帰り道に限らず朝起きたとき、外を歩いたとき、ご飯を考えているとき、TPOもわきまえず突如流れ出た。
「辞めたいんです」
と言いながらばたばたと涙を流し、口元だけは辛うじて笑おうとするわたしを上司は一瞥する。
「おまえ、気持ち悪いよ。席に戻って頭冷やしてこい」
手がしっしっと犬でも追い払うように動かされる。
最後の何かもそこで断ち切れた気がした。
辞表を丁寧に机の上に置いたら、何か大きな声が後ろで聞こえたけどもう振り向かなかった。
その日以降あの会社には関与していない。
携帯も家も何もかも解約して、いつかどこかで見た観光地に旅行した。
思わず手で遮りたくなるような明るい太陽の光にまたぼたぼたと涙が落ちる。
でも今この涙はきっとTPOをわきまえている。
ココロオドル
いつまでも
かわいらしい人形とか
はやりのキャラクターグッズとか
ひらひらのお洋服で
機嫌がとれるような
ちっさな子供だと思わないで
といいたいのに
また
差し出されるおみやげにすがってしまう
嬉しそうな顔で
楽しそうな声で
涙を流す心を押さえつけて笑う