涙の理由
仕事からの帰り道、信号が赤になるのをぼうと眺めていたらぼたぼたと水が落ちてきた。
雨も降ってないのにと思ったら信号の赤が滲んでいる。
ああこれ涙だ、
気がついたときには信号が青に変わってクラクションが後ろで鳴った。
加速する車と拭っても揺れる視界、意味もなく、わけもなく、とめどなく。
その日を境にそんなことがだんだん増えて、
それは仕事からの帰り道に限らず朝起きたとき、外を歩いたとき、ご飯を考えているとき、TPOもわきまえず突如流れ出た。
「辞めたいんです」
と言いながらばたばたと涙を流し、口元だけは辛うじて笑おうとするわたしを上司は一瞥する。
「おまえ、気持ち悪いよ。席に戻って頭冷やしてこい」
手がしっしっと犬でも追い払うように動かされる。
最後の何かもそこで断ち切れた気がした。
辞表を丁寧に机の上に置いたら、何か大きな声が後ろで聞こえたけどもう振り向かなかった。
その日以降あの会社には関与していない。
携帯も家も何もかも解約して、いつかどこかで見た観光地に旅行した。
思わず手で遮りたくなるような明るい太陽の光にまたぼたぼたと涙が落ちる。
でも今この涙はきっとTPOをわきまえている。
10/10/2024, 1:34:36 PM