束の間の休息
ちびさんたちと学校へ歩きながらごみを出し
ちびさんたちが学校に行きたくないとぐずったあとの嵐のような部屋を片付けて
ちびさんたちが絶対に世話をすると約束したかつて雨に濡れていた子犬に餌をやる。
山のような洗濯物を乾かして畳んでアイロンを掛け棚に戻し
適当に余り物のご飯を食べる傍ら恐らく人間よりも高いごはんを食べている犬を見つめる。
あぁはいはい散歩に向かおうね。
ちびさんたちはお菓子を買えないと文句を言うけれど
スーパーに連れて行くと時間が倍かかるし数量限定品には間に合わないし
保冷バッグを片腕に掛けながらちびさんたちと手を繋ぐのも中々疲れるんだよってことは
そっと胸にしまっておくけれど
夕飯
お風呂
宿題と音読のはなまるじるし。
犬に餌。
あのね、今日ね、せんせいがね。
たーくんがわーってね、
きゅうしょくできなこの揚げパン、じゅわわーってしたら、
自分でもできるって言ってたよ!
なんのことかわからんぞ、ちびさんや。
ちびさんたちが目を閉じたら不意に訪れる静寂に
時計の音が大きく聞こえたりして
ああ今日も一日なんとか終わったなあなんて息をついたりして
あ、洗い物終わってなかった。とか
今朝片付けたはずの部屋だよなあここ、とか
結局この犬世話してるのちびさんたちじゃないよなあ、とか
色々思うこともあるけれど
きっといつかそんな恨み言さえ懐かしく思い返す日が来るから、
今はそっと目を瞑ってやり過ごそう、
…
やり過ごせたらいいなってそう思う。
力を込めて
幸せにしてくれる?
と涙をためて言ったきみ
勢い良く頷く僕
あの日の約束を僕は果たせているのだろうか
星座
あたま。
肩の関節腰のベルトと脚関節。
空に置かれている星の配列に見たことのない神話の人物を当てはめられるのって天才だと思う。
わたしなんて見たことのある白鳥すら空の星に当てはめられないのに。
踊りませんか?
年代を当てようクイズ、だだん♪
踊りませんか? で一番最初に出てくるのが
Shall we dance?
2番目に出てくるのが
それより僕と踊りませんか?
の場合、回答者の年代はいつでしょうか。
奇跡をもう一度
道端の草になんか目に留めないと思ってた天上人が、何を思ったか萎れた雑草に声を掛けた、あの記念すべき奇跡の起きた年月日。
「これ、飲みます?」
と差し出されたどこまでも透きとおって未来までも見通せそうな天然水という名の御神水。命の水とはこのことか。日照りに降る天からの雨とはこのことか。
何が起きたかも解らずにただ恵みの雨を頂き、一瞬の風たる天上人を見送ったあの夏の日。
あの奇跡がまさかもう一度起きるのならば、次こそはこの一生を賭けてひとこと踏み出しましょう。
もしまたこの道をあの方がお通りになるのなら。
一人凛と咲く孤高の百合の花が、太陽の熱を一身に受けて花壇の世話をしていた、あの忘れるはずもない奇跡の年月日。急いで近くの自販機に走り一番怪しくなさそうな断られにくそうな水を買って、ありったけの勇気を振り絞って目の前に立った。
「これ、飲みます?」
なんて陳腐で滑稽で、気の利かないひとことだろう、時間が戻せるなら戻したい。穴がないなら掘ってでも入りたい。
「…ありがとうございます…」
なんとたおやかな百合の花は美しく微笑まれることか。女神の微笑とはこのことか。もの言う花とはこの人のために生み出された言葉だろうか。
あまりのことに何も言えずに立ち去ったあの夏の日。
もしもう一度あの方がまたあの場所におられるのならば、次こそは気の利いたひとことを口に出しましょう。
もし斯様な奇跡が今一度起きるなら、それを運命と変えてみせましょう。