香水
リネンに残る残り香に顔を埋めて目を瞑る
この残り香に人の温もりがあった頃を思い出す
鍵のついた棚に入れた硝子の瓶は中身がもう空になりかけていて
いつまでこの瓶を満たせばこの空虚な心がいっぱいになるか
もうわからなくて
今日も魂のない液体を吹きかけている
言葉はいらない、ただ…
あなたがほしい。
突然の君の訪問。
叫んだ。心の中で。実際に出たのはヒッ、という鋭く息を呑んだ音だけだった。
抜き足差し足棚に置いてある強力スプレーを手に取り背後に回って噴射する。
去ね!!!!!!
滅びの呪文を唱えながら煙幕の中目標が仰向けになって転がったのを確認。
ということが起きて以来、絶対に彼らの訪問を受けないために推奨されるあらゆる場所に忌避剤と毒餌を置き、月1の空気噴射も欠かさず行っている。
君は出禁。予約も断りもなしに敷居をまたぐことは絶対に許さない。
もちろん予約され挨拶されても訪問は受け付けない。
雨に佇む
見上げると雫が目に入り、俯くと雫が目から落ちるので、ただそこに立ち止まっていた。
自分が今どこに立ち何を求めているかも解らずにただそこで立ち尽くしていた。
耳に響いていた音が
粒の音がだんだん
だん
だん
大きくなって
もう何
も
聞こえ
わたしの日記帳
半分はそうであってほしいという願望でもあるけれど、
世の中の99%の人たちは日記を書くときに誰かに見られることを多かれ少なかれ意識していると思う。
うっかり仕舞い忘れて家族や友達に見られることから、死後誰かが種々の理由をつけて広く公開することまで、人に見られる可能性は無限にある、しかも珍しくない。アンネの日記がいい例だ。その中身を知らない人でさえ、かつてアンネ・フランクという少女がつけていた日記が実在したことは知っている。
まさか自分がかの少女のように後々有名になる日記をつけているとは思わない。
でももし──万が一億が一、世の中に出てしまったら──?
過去の誰かの日記がやいのやいの言われるように、自分の日記も何も知らない未来人にやいのやいの言われるとしたら?
ある人の受け売りだけれど、日記というのは必ずしも真実を書き取るものでなくても良い。
1日疲れ果てて気力がなくても日記には「楽しくて最高の1日だった!」と書き残せる。文学作品の一種なのだ。
今読める日記も、もしかしたらいつか公開される日記も、はたまた幸運なことに書き手の目にしか触れない日記も、誰かを主人公にした一冊の本なのだ。
さて今日もそんな物語に行を加えてみよう。
親愛なるキティー; 半分はそうであってほしいという願望でもあるけれど……、