【心天気予報は梅雨入り宣言】
まだ梅雨入りが始まっていない頃、自分の心の中では勝手に梅雨入り宣言をした。
「無理してないよ」「大丈夫大丈夫」
自分にまだ言い聞かせられていた、聞き入れられていた言葉が痛い雨に変わる。
雨の音が全ての音をかき消してしまう。自分の声、鼓動、外の世界の音全てが。
「今日の天気です。先日は一日ひどい雨が降っていましたが……見てください!それが嘘だったかのように快晴です!」
部屋の隅でテレビからそう音が垂れ流れている。
〈雨が止んだなんて嘘つき。〉
だって、汚い自分の嗚咽が、後で頬が痒くなるだけの涙が、汚れた傷跡が、袖裾に滲む血が、そういった心に降る雨が
私だけいつまで経ってもやまないから。
【思い出話】
2人だけの秘密。もしそれが相手を縛る、自分を縛る鎖であるなら私には必要ない、というか持ちたくない。
きっとそれは依存に落ちるのが怖い私のわがままで、ひとりですら怖がって避ける私の独りよがり。
縁も離れてしまうのなら、多分どちらか片方は秘密と称した鎖の存在を頭から離してしまう。
2人の間の関係がコロコロ変わっていっていたのなら尚更。
軽く引いただけで戻ってきてしまったもう片方の端を見つめてただ虚しくなってしまうだけ。
【わかってるつもり】
あなたの言葉を理解しているはずだった。
いや、しているつもりだった。
「優月ちゃん、もう優しくしんでいいよ?」
「というか、もうしないで、ただただ私の心が苦しく絞め上げられるだけなの。」
そう、すぐにでも消えてしまいそうな儚い顔をしたあなたを見るまでは。
その次の日から私の隣をいつも歩いていた彼女・琴葉は隣を歩くことをやめた。
学校は同じであっても、学年も同じであってもお互いが出会うことすらなくなった。
「あ、ゆっちことちゃんは?」
「あー、最近会ってないなぁ。芽依知らん?」
「いや、うちも知らんよ、ってかあんたの話でしか聞いたことないから面識ないって!」
「めーちゃん、ことちゃんって?」
「あー瑠羽知らないのか、ことちゃんは琴葉ちゃんていってゆっちのかn「芽依。」バディだよ。ほら、幼馴染同士で演劇部の部長副部長してるって話聞かんかった?引退前まではここの王子様とお姫様コンビとか囁かれてるから知ってるだろうと思ってた。」
「あぁ、月代さんかぁ。あのホワホワした感じのよくおさげしてる子だよね。私委員会一緒だから昨日集まりで会ったよ?」
「え、そうなの?!だってよゆっち。」
「だってよって言われても………。るーありがとね。」
「? いえいえ〜、また何かあったら言ってね。」
教室で帰りの準備をしながらイツメン3人でそんな話をする。
あの日以来、帰宅途中によぎるのは琴葉に言われた
「優しくしないで」という言葉。
なんとなく理解できている気がしていた。
もう私を甘やかさなくていいんだよって彼女が言いたがっていたような気がしていた。
でもそうしたら不正解、という意味合いで何も連絡をよこさないだろう。
ふと思いついた、私的には最悪の回答を琴葉のメッセージに打ち込む。
半分忘れていた頃に返ってきた返信。
それには
〈正解。気づくの遅いよ。ずっと待ってたのに。〉
とだけあった。
私は決して優しいわけではない、それをいつまで隠していられるかと思っていたが、タイムリミットが来たようだ。
〈私は優しいから告白に応じたわけじゃないよ。琴葉を独り占めしたかったから応じたのに。〉
それだけをまたメッセージに残した。
【どこでもドアがあったなら】
ふと、どこかに行ってしまいたいと思った。
「どこでもドアがあったらどんな場所にでも行けるのに。」
ベッドに転がりながら視線の先にあるドラえもんの英語版漫画が目に入ったからそれとなく呟いてみる。
桜が咲き誇る庭園、綺麗な青が澄み渡る海、静寂が通る大きな図書館。夏日が照る砂浜。
誰かにとっての楽園で雰囲気に身を委ねたい。
自分にとっての楽園、幻想郷がないから。
どこでもドアを開いて自分だけの楽園を探して身を置くのもいいのかもしれない。
~水漕の水~
「水に溺れたい。」
最近の私はたまにそう思う。
きっとそれが死にたくなった、生きる意味をどこかに置いてきた証だと思う。
水の中なら何も音が聞こえないから、こちらから音を発しても音が届かないから。
だから何となく思考を放棄するために無の水槽の中に身を委ねる。水に溺れたくなった度に。
きっと私はその無の水槽に依存している。だから今の生きる意味はきっと水に溺れたい衝動を持ち続けること、なのかもしれない。