【たまには闇に呑まれてもいいじゃないか】
〈最近元気なさそうやけど大丈夫?〉
〈うん、大丈夫〉
【泣けない私の代替案】
この頃、泣きたくても泣けなくて。
関係性の紐を一旦解きたくて。
傘も持たず外を彷徨く。
車の音も、何かヒソヒソ言われているであろう言葉も今だけは気にせず何処かへ歩く。
「今日も雨やね。」
「風邪引いたらいかんから、傘とタオルはちゃんと持ってきなさい。」
きっとどこでも聞くであろう雨の日の会話。私にとっては
「まだ大丈夫やろ?泣いとったらいかんよ。」
と言われているようにしか聞こえなくて。
毎年丸12か月泣けない私の代替案。
それが、梅雨の中で濡れて歩くこと。
どう頑張っても泣けない私の代わりに雨雲が、空がないてくれる。
その時だけは自分に言い聞かせも思い込ませもしなくていい、素直になってもいいひとときだから。
【脱色不可】
「ねぇ、本当にいいの?」
「うん、覚悟はしてきたつもり。」
「わかった、じゃあやるよ……?」
「うん、お願いします…。」
2人の少女がそんな会話を小さな声で繰り広げる。
全体が純白色のとあるベッドルーム。
その部屋の真ん中に置かれている天蓋付きのベッドもまた真っ白で。
全てが真っ白な2人だけの世界に残るのは彼女たちの存在証明となる影。
でも、その影ですらとても儚げなものだから
時折彼女たちは消えかけそうな声を漏らす。
時の流れを忘れてしまいかけた頃、さっきまで静かだった先程の少女たちの「クスクス」と笑う声が聞こえてくる。
そしてまた会話が聞こえてくる。
「ねぇ、ほんとに良かったの?もう、戻れないよ?」
「うん、これでいいの。ーあなたとのお揃いなら、一緒ならなんでも嬉しいの。」
「私もよ、あなたとお揃いで嬉しい。」
「これからも一緒ね。」
「うん。もう戻れないけれど、一緒。」
【白い天秤か、黒い天秤か】
白黒の天秤どちらかを選ぶとしたらどちらか。
もっと簡単な言い方をするのならば地獄で裁きを受けるか、天国で裁きを受けるか。
私は地獄で裁きを受けたい、受けるだけならば。
【月にリボンを結んで】
あなたみたいになりたかった。
と、月にリボンを結ぶ。
月はよく、女性を表す表現として使われる。それはきっと、夜空の上で誰それ構わず静かに見守ってくれるから。
私にとっては羨ましい。そんな人を優しく見れるような視線を持ってはいないし、そもそもそんなことができるような心の余裕さえない。
リボンが似合うような可愛らしささえない私は。
今夜も月が上るたびにリボンを結び続ける。
短冊のように、願掛けの絵馬のように。
「あなたのようになれますように。」
と願いをかけて。