一輪の花
親しくしていた男友達がいた。彼は1年前、最愛の奥様を亡くして失望の中にいた。
お子さんもいなかった彼は、一人ぼっちになってしまった。
実のお兄さんとは関係がギクシャクしているのも聞いた。
私は見ていられず、ほっとけず、あれやこれやと世話をやいた。
お料理も経験が無い彼に、出来る限りの手料理を届けた。時には一緒にランチを共にした。割り勘は私から言い出した。
お互いに気兼ねなく付き合っていく良い方法だったから。
電車に詳しい彼のリードで電車の旅も楽しんだ。いつも日帰り旅行で、お互い距離を大切にしていた。
「いつも、一恵ちゃんにはやってもらってばっかりで申し訳ないな。」
と、ふとした時に、真剣な顔で言うものだから、誕生日が近かった私は珍しく一番好きなものをリクエストした。
「何のお花でも良いから、一輪の花をプレゼントしてくれたら、すごく嬉しいな。」と…。
誕生日当日、待ち合わせした駅に現れた彼の手には、一輪の花は見当たらなかった。
私は、とてもショックだったけれど顔色ひとつ変えずにファミレスで食事をした。
倹約家の彼のこと。お花は高い買い物なのだろう。
花の咲く場所には、電車に飛び乗って一人でも見に行く私のことを、彼はこの一年で知っていたはずなのに…。
私は一輪の花の価値もないと言われたようで情けなかった。
殿方に申し上げたい。たった一輪の花で、相手はどれだけ幸せな気持ちになれるか。
ガーベラでも薔薇でも。ダリアだったりしたら尚更嬉しい。
私の男友達は、一輪の花をケチったが為に大切な何かを失った。
花びらが散っていくように…。
ひそかな想い
私は2匹の怪獣と生活を共にしている。愛すべき双子のハルとルオだ。
2人のお陰で笑顔も沢山増える一方、正直1日の終わりにはクタクタでベッドにダイブする毎日だ。
離乳食も既に終わっている怪獣くん達は、この頃よく食べる。
四六時中何かしら作る為に、キッチンに立っている。
食べてもその分動き回るので体重はプラマイゼロで平均値をキープしている。
おはよう〜の挨拶が「お腹しゅいた〜!」で始まる日などざらだ。
そんな話をママ友にしたら、「え〜!?食欲旺盛でいーじゃない!大きくなる証拠〜。」と、美容家のikkoさんのポーズで返してきた。まるで他人事だ。
月に一度か二度、頑張ってる自分にご褒美と駅前の和菓子屋さんでフルーツ大福を買って食べるのが目下の楽しみ。
しろあんと大福の柔らかい餅の様な求肥に包まれた季節ごとのフルーツは、緑茶とマッチして最高のハーモニー。
夜の9時過ぎ、2人がやっと寝入った頃、お湯を沸かし、さあ私だけの時間♡と冷蔵庫から今日買ってきたフルーツ大福をそ~っと取り出した瞬間。
背中に気配が…。トイレに起きてきた怪獣の目が4つ。
じーっと私を捉えながら、「あー!ママだけずるいー!」の大合唱。
君たちは忍びなのか?
お願いですから、ママにも休息を。
ママはリビングでも微動だにしないラスボスも相手に闘う日々なのですから。
私のひそかな想いは、1人で優雅に誰にも邪魔されず好物を食することだ。
その想いは、まだまだ届かないようで…。
がんばれ!私!自分で自分にエールを送った。
ココロ
こころと言えば夏目漱石。何度読み返しただろうか…。
カタカナでココロと書いてあると、あら不思議。ずっしりとした重みさえかんじる仮名文字のこころはどこえやら。
電子化された機械的でもあり、可愛いロゴみたいなコロコロとした軽さも感じられる。
我が師の心こそ大切なれ、との教訓もココロコソタイセツナレだとワレワレハウチュウジンダの様で宇宙からのメッセージと化してしまうではないか。
平仮名表記とカタカナ表記だけで言葉はガラリと変化する。
日本語はまだまだ奥が深い。そして面白い。
国語辞典を又手に取ろう。
この頃はお笑い芸人さんのYouTube、Spotifyで音楽鑑賞、radikoでラジオ。それにスマホゲームのポケポケとポケモンGOにすっかりハマった私は、かつて文学少女と言ってくれた近所の辻さんの叔母様に謝りたい気分である。
身近に楽しめる優秀な相棒。スマホ。Kindleもファッション雑誌まで購読出来てしまう。
でも、私はやはり読書だけは装丁された単行本か文庫本が好きだ。
やはり、原点回帰といきますか…そろそろ。
ココロの赴くままに。
星に願って
生まれてからこのかた星に願った記憶がない。夜空を見上げれば瞬く星は綺麗だから、ただただ見とれてしまう。
遠い記憶を辿ったら、数回チャレンジした事があった。流れ星に願うと夢が叶うと知った私は流れ星が見たくて見たくてチャンスを伺っていた。
ようやく現れた流れ星は、あっという間に消えてしまって願い事など言えず、又ただただ綺麗で見とれている自分がいた。
星に願う人たちは、とても素敵だし利口だと心底思う。
ならば自分もそうすれば良いのに、結局ただただ綺麗だな〜とうっとりするばかり。
私が願う対象は銀河の惑星の中でも、お月様が良いらしい。満月なら尚良い。
1番近い日は何と今日か明日2月11 日か12日。スノームーンだ。
2025年のスーパームーンは11月5日だそうだ。地球と月の距離が最も近くなる。
4月13日はピンクムーン。8月9日はスタージョンムーンの満月がお目見えする。
手帳に書き留めているはずなのに、去年は何度か見過ごす始末…。お天気の関係もあったかしら…。
月に一度はお月様を拝めるのに…見逃すとは…。
ああ…。私の願い事は叶う日が来るのだろうか。謎だ。
願わくば、星に願いを。
そっと
言いたいことは山程あった。頭の中を整理して、相手にできる限り伝わる言葉を選んで今まで感じていた?の件をつらつらと書き綴る。
読み返してみた。プライドの高い彼女なら、猛反撃に出るであろう文にまとまっていた。
これで縁が切れるならそれでも良いと思った。
そんな関係なら、最初から無かったことにするに限る。
私としては、彼女からごめんなさい。と、誠実な謝罪の言葉を期待してしまった。
でもそんな理想的な返事は返ってこないだろう。
何しろ彼女は自分の時間だけが尊いたぐいの人なのだから…。
私の要望が素直に受け入れられたことはあっただろうか。
無きに等しい。
思いの丈を書き終えて、そっとペンを置いた。
後はポストに投函するのみ。
楽しかった思い出も、勿論ある。それだけを残して、後は全て忘れたいと思う。
もう、そっとしておいて欲しい。
絶縁状は静かに机の上に置かれた。彼女にさようならと告げながら…。