一輪の花
親しくしていた男友達がいた。彼は1年前、最愛の奥様を亡くして失望の中にいた。
お子さんもいなかった彼は、一人ぼっちになってしまった。
実のお兄さんとは関係がギクシャクしているのも聞いた。
私は見ていられず、ほっとけず、あれやこれやと世話をやいた。
お料理も経験が無い彼に、出来る限りの手料理を届けた。時には一緒にランチを共にした。割り勘は私から言い出した。
お互いに気兼ねなく付き合っていく良い方法だったから。
電車に詳しい彼のリードで電車の旅も楽しんだ。いつも日帰り旅行で、お互い距離を大切にしていた。
「いつも、一恵ちゃんにはやってもらってばっかりで申し訳ないな。」
と、ふとした時に、真剣な顔で言うものだから、誕生日が近かった私は珍しく一番好きなものをリクエストした。
「何のお花でも良いから、一輪の花をプレゼントしてくれたら、すごく嬉しいな。」と…。
誕生日当日、待ち合わせした駅に現れた彼の手には、一輪の花は見当たらなかった。
私は、とてもショックだったけれど顔色ひとつ変えずにファミレスで食事をした。
倹約家の彼のこと。お花は高い買い物なのだろう。
花の咲く場所には、電車に飛び乗って一人でも見に行く私のことを、彼はこの一年で知っていたはずなのに…。
私は一輪の花の価値もないと言われたようで情けなかった。
殿方に申し上げたい。たった一輪の花で、相手はどれだけ幸せな気持ちになれるか。
ガーベラでも薔薇でも。ダリアだったりしたら尚更嬉しい。
私の男友達は、一輪の花をケチったが為に大切な何かを失った。
花びらが散っていくように…。
2/24/2025, 1:01:54 PM