寒くて、苦しくて、つらくて、どうしようもなくって。
でも、君がいてくれたから、生きられた。
ここまでやってこられた。
あの日、抱きしめてくれたから。あたたかいあの温もりが、安心できたから。
ありがとう。そして、
サヨナラ。
「あの日の温もり」
私は記録係。この世界での出来事や人々の想い、その全てを記録する。1つも、1人も、決して記録し忘れることはない。
私は記録係。私自身の想いも記録する。たまに、よくわからなくなってしまうこともある。自分のことを1番わかっているのは、案外、自分以外なのかもしれないな。
「記録」
はぁ、なんで私は今日も、こんなにダメなんだろう。
−遡ること、数時間
「あーっ!」
登校中に持っていたバックを落とした。しかも、少し泥の混じった水たまりに。1番大事なのは、持っていたバックの中身。何を入れたっけ。そう思い出しながらバックを拾う。と、私は絶望したのである。
「す、スマホがーっ!」
朝充電して放り込んだままのスマホ。最近カバーを変えて、ピカピカに光り輝いていたスマホ。それが、今は、
「汚ったな…」
くなっている。それだけならまだいい。スマホが無事で、ほっとしながら学校に行くと、遅刻である。まだ、それだけなら、まだ、いい。でも、3限目の理科の実験では混ぜてはいけない液体を混ぜてしまった。先生は、
「少しくらいなら大丈夫だよ。そんな、世界の終わりみたいな顔しなくったて、大丈夫だって。」
と言ってくれたが、私は先生が優しすぎると思う。だって、混ぜたらダメってはじめに言ってたんだよ?はぁ、もうそんなのもどうでもいいわ。はぁ、ホントに、はぁ。ため息しか出ない。
そして、昼ご飯のお時間。今日はお母さんの手作り弁当。友達と食べる気になれなくて、校庭に出て1人静かに食べ始める。
「ん?」
急に暗くなったな。と思い、顔を上げると、目の前に人がっ⁈
「きゃっ⁈はっ、えっ、な、誰?」
あ、失敗、した。先輩かもしれないのに。でも、その人は優しくって、
「ごっ、ごめん。そんな驚くと思わなくて。…君、よかったら一緒に食べない?」
と、一緒に食べるお誘いを、って、え?なぜ急に?
「だめ、かな?」
え、は、なんか、急に、目、おっきくなってません?
「いや、いいですよ!むしろ、嬉しいです。」
心にもないこと言ってしまったのである。
「はぁ。」
なんで、私はこんなにもダメなんだろう。
「どうしたの?ため息ついて。」
えっ、声出てた?やばっ。
「僕でよかったら、話きくよ?」
なんか、なんでか、急に話したくなって。気づいたら今日のこと全て話してた。そしたら急に先輩(?)が
「ちょっと、ちょっとだけまってて。」
そう言ってどこかへと行った。
戻ってくると、その手には一輪の花が。
「これ、元気出るでしょ?一輪だけだけど。」
そう言って私の髪に挿してくれた。
「あ、ありがとうございます。嬉しいです」
その時から先輩…颯くんと話してる時、ドキドキしてるのは、まだ私だけの秘密。
「一輪の花」
いつからだろう。「魔法」という存在を信じなくなったのは。
いつからだろう。妄想の世界を「ありえない」と否定し始めたのは。
いつからだろう。そんな自分がつまらないと感じているのは。
今、そんな考えがどうでもよくなっている。
なぜ、「魔法」を信じない俺の前に魔女がいるのだろうか。そもそも、この世に魔女などという現実離れした存在がいるのか。心の中であれこれ言っているが、口に出す勇気は残念ながら俺にはない。
よし。逃げよう。踵を返してそそくさとその場を去ろうと思った。が、その魔女らしき女がそれを許してくれない。
「逃げないで。怪しいモンじゃないから。」
いや、それがかえって怪しいんだよ。
「あの、ご用件は…」
ここは素直に会話しよう。
「あのさ、キミさ、魔法とか信じてるタイプ?」
「は?」
なんだよその質問。初対面の人にする質問じゃないだろ。まずは名前とかだろ。いや、聞かれても答えないけどさ。
「私さ、魔女なんだよね。」
あ、自分から言うタイプの人ですか。
「あと、1つ思うんだけどさ、キミ、心の中でめっちゃ話すのに、声には出さないんだね。もしかして、学校とかでは陰キャ?」
え、バレてた、の、か。心の声聞こえる系の魔女、か?
「あのさ、言いにくいんだけど、フツーに会話してくんない?私かて、魔女とはいえ、キミとは似てんじゃん。」
どこが似てんだよ。言いかけた言葉を飲み込んで、
「はい。なんか、すいません。えと、俺は、高校1年の、相田葉魔です。」
と、名乗ってしまった。不審者かもしれない自称魔女に。でも不思議と自称魔女といると安心するのは、気のせいなのか?
「アイダ、ヨウマ、クンね。ヨウマクンと呼ばせてもらうわ。そういえばまだ名前は教えてなかったね。私はヨウキ。」
ようき…陽気。なんか、繋がった。
「あの、あなたの目的はなんなんですか。こんなに長々と話しているのに、一向に目的が見えてこないんですけど…。」
もう、疲れた。さっさと終わらせてくれ。
「あはは、そうだね。ヨウマクン。私に、魔法を教えてくれないかな。」
…⁈
もしかしたら、もう一度あの時みたいに、何も考えず、純粋な心で過ごせる日が来るのかもしれない。
↓作者から
長くなったこのお話を最後まで読んで下さりありがとうございます。次からのお話も楽しみにしていてくださいね!(次はもっと短いお話にするつもりデス…)
「魔法」
今日も俺は、夜空を駆ける。
誰にもバレないように。
誰かに見つからないように、こっそりと。
誰にも認知されないのは寂しい。でも、
俺だけの夜空は、より一層輝いて見えた。
「夜空を駆ける」