大狗 福徠

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6/25/2025, 10:45:16 AM

小さな愛
例えば名前を漢字で書けること。
コーヒーにいくつ角砂糖を入れるか知っていること。
昨日食べたご飯を知っていること。
そばにいることいてくれること。
しみじみとした小さな愛は普遍的に、
断片的に当たり前として貴方達の周りに転がっている。
その転がった愛が、拾い集めた愛が、
どうかあなたの命を守る盾に
あなたの命を繋ぐ縄に
あなたの命を温める布団に
あなたの命を照らす光に
あなたの命を休ませる夜に
どうかそうなりますように。
そうでありますように。

6/22/2025, 3:20:39 PM

どこへも行かないで
暗い路地裏。
子どもたちの秘密基地。
段ボールにガムテーム、格好良い木の枝と
ちょっと奮発して買ったリボンやらシールやら。
幼稚な作りですぐに壊れてしまうように見えるそれらは、
案外長生きしていることがある。
何故なら、子供達が居ない間に守るものどもが居るからだ。
寂しいもの、或いは気付かぬもの。
それらは健気に遊び場を守っている。
大雨、強風、風化から基地を逃し続ける。
いつまでも、永遠に一緒に遊び続ける為に。
しかし終わりは来る。
子供はいつまでも子供で居られない。
いつかは秘密基地から姿を消してしまう。
秘密基地のことも、友達のことも忘れてしまう。
あれらはそれをよくわかっている。
いつしか献花がなくなったように。
自分の死を悲しむ声が少なくなっていくように。
自分たちが置いていかれる存在であることをよくわかっている。
だから認めれない。
寂しい、寂しい、寂しい、寂しい。
どうして来なくなったの。
どうしておいていったの。
友達じゃなかったの。
そして、自覚しないうちに大きくなった子供達を
引き摺りこんでしまう。
自分たちの家。
大きな大きな暗がりの中。
あの日の秘密基地へと。
だからあちら側へ行ってはならない。
あれらいつだって手薬煉引いてあなたが来るのを待っている。

6/21/2025, 10:53:41 AM

君の背中を追って
いつの日からか君が目につくようになった。
成績優秀。
容姿端麗。
品行方正。
良い子の集合知のような貴方。
気に食わなかった。
一番ははいつだってあたしだったのに。
だからねじ伏せようとして、血が滲むような努力をした。
食事を、睡眠を切り詰められるだけ切り詰めて。
あくる日も、あくる日も。
頑張って、頑張って、頑張って、頑張って。
倒れるくらい限界になって、ようやく気づいた。
君は手が届かないところにいる。
ずっとずっと、てっぺんの近く。
そのお膝元に君はいる。
手が届くはずがない。
持ち合わせた"モノ"が、
"才能"が、違いすぎる。
あたしは普通の子になった。
一番じゃ無ければ、誰だってあたしを見はしない。
あなたは凄い子ねと言った先生も、
これなら将来は心配ないなと行った担任も、
あなたなら何だってできるだろうと言った顧問も、
教えなくたって大丈夫だなと言った塾の先生も、
もうあたしなんて見向きもしない。
あたしは頑張ることを辞めた。
君は無敵だった。
君の背中を追っていた日々。
君の背中を追う意味がなくなった日々。
一番であることへの執着との乖離。
かわりの、君への執着。
君の背中を目で追い続ける。
お膝元から滑り落ちるか、てっぺんにたどり着くか。
その日になるまで、君を見続ける。
その日が来るまで、決して君から目を背けない。

6/19/2025, 12:49:22 PM

雨の香り、涙の跡
ざあざあ降りの雨がある。
しとどとなく降っている。
降る雨は、
空を濡らし、
街灯を濡らし、
葉を濡らしている。
雨は光を吸い込んで、暗い暗い空を守り合っている。
なんの変哲もないベランダ。
観葉植物も仕切りもなく、可愛げなんてのもなかった。
降りしきる雨に濡れながら珈琲を啜る。
カフェインなんてどうでもよかった。
真夜中が明けるまで、眠りたくはなかった。
薄く香る苦味。
煙とともに立ち昇って遠くへ行く。
誰かに嗅がれる頃には少しも苦くはないのだろう。
涙の跡はまだ枯れない。
ずぶ濡れになって隠すのが精一杯だった。
脆いから、
穴だらけだから、
色んなとこから嫌なものがたくさん染み入って、
自分に染み入って溶け込んでくるから。
それを流し出さなきゃいけなくて。
まだまだ青い自分が許せなくて。
芯までぐじゅぐじゅになったから。
涙の跡が乾くまで、それまでここを動けない。
涙の跡が乾いたのなら、その時にはもう晴れているだろう。
雨の香り、涙の跡。
共に乾いて遠くへ行って、誰かに届いた時には
ちっともなんともなくなってるはずだろう。

6/17/2025, 1:17:02 PM

届かないのに
ド深夜にお前から送られてくるクソLINE。
髪乾かすのにリアル1時間かかるのゴミすぎるだとか
ヘアオイル出し時の音ガチでアァーンでワロタンバリンシャンシャンとか
知ったこっちゃねぇことばっかり話しやがる。
映像撮っとけよ気になるだろバカ。
だがそんなインフィニティエンドレスバカタレフェスティバルな
お前にも、今までの人生丸ごとぶっ壊されるような悲劇は起きる。
人生は言わずとしれたクソゲーだってことはよく知ってた。
でも、何もクソゲー代表がお前じゃなくたっていいじゃないか。
嫁さんと娘っ子が交通事故で亡くなるなんて。
カスツイッタラーみたいなことしか言わなかったお前が
初めて恋をして。
ドキドキしながら友達になって。
全力でアプローチして付き合って結婚して。
子供が生まれて育って幸せの絶頂だっただろ。
あんなに幸せそうに愛おしそうに話すとこ初めて見たんだよ。
あんなにうんうん悩んで、わかんねぇこと調べまくって、
少しでも嫁さんと娘のためになるように頑張ってただろうよ。
なぁ、マジでさ。
見たかなかったよ泣くのもできない絶望に陥ったあいつの顔なんざ。
なんであいつなんだよ。
あいつが何したってんだよ。
なんで今なんだよ。
もうちょっとで帰れるって時に。
嫁さんとの結婚記念日って浮かれてた時に。
惨いとは思わねぇのかよ。
もう届けらんねぇプレゼントのネックレス握りしめてさ。
あんな顔で、あんな気持ちで、
あいつどうやってこれから生きてくんだよ。
「届けらんなかったなぁ」って笑ってるくせに
状況は1ミリも笑えねぇんだよ。
なあ、俺はどうすればいい?
どうしたらお前まで失わないで済む?
お前はいいやつだから絶対に後を追うよ。
そのほうが幸せだって俺もわかってんだよ。
でもそうしたら、そしたら、
全員が幸せだったとき知ってる奴が居なくなんだよ。
幸せだった証明が出来なくなんだよ。
可哀想な家族で終わっちまうんだよ、お前みたいないいやつが。
そんなん許されるわけがないだろ。
俺ごときの声なんざどれだけ叫んだって届きやしないだろうが、
それでも一縷の望みがあるなら、まだ届くかもしれないなら。
いくらでも叫んで、カスみてぇなLINE送って。
何度でも何でも付き合ってやるから。
お前の生きる理由にもう一度ならせてくれ。
もう二度と、届かないのになんて後悔させないから。

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