ふとした瞬間
刹那的な感情。
一抹の心情。
儚い気持ち。
朧気な気分。
ふとした瞬間に胸のうちに巣食うそれらを、
見逃すわけには行かない。
何よりも愛したあなたに与えられたものどもなのだから。
子供は幼い大人であり、大人は老いた子供である。
海は大きな雨粒であり、雨粒は矮小は海である。
ふとした瞬間に潰えるそれらを、
見逃すわけには行かない。
何より愛を与えてくれらのだから。
ふとした瞬間に滅びるその時まで。
愛してみせよう。
貴方がたがなんと言おうとも、
私には貴方がたを愛し守る権利があるのだから。
星明かり
夜中、いつものようにパソコンを開いてゲームを起動する。
真っ暗な部屋の中、画面から青白い光が放たれる。
確実に目が悪くなるだろうがこれでいい。
長生きするつもりなんてないのだから。
慣れた手つきでオープンワールドに入り込む。
いつも通りのソロプレイで、また最初から。
資材を集めて、ツールを集めて、ボスを倒して。
いつの間にやらゲーム内時間が夜中になっている。
見えた夜空はあまりにも美しくってグラフィックの進化に驚いた。
敵がいるのはいつの目の前だったから
空なんて見上げたことがなかったんだ。
思わず窓の外を見つめる。
小説だったらゲームより美しいとか書かれるんだろうが実際はそんなことはなく、平々凡々な空が広がるのみだった。
それでも一等星の星明かりがこちらを照らしていた。
影絵
「ちいちゃんの影送り」。
僕らの世代は小学校の時にみんな教科書で見たお話だった。
そしていつも、それを見た学級は影送りをしてた。
青い青い空に浮かぶ自分の形をした雲もどき。
それが面白くて仕方がなくてよくやっていた。
思うに、当時の僕らにとってそれは空想を描く友人でありながら
決して手の届かない、触れることの叶わない神聖なものだった。
それに、擬似的ではあるけれど触れて、その上穢す事が出来たのがあまりにも至福だったんだろう。
僕だけは、大人になってもそれがやめられなかった。
通勤中、買い物中、ドライブ中。
いつだって暇を見つけては影を送って穢し続けた。
送った影ばかりが溜まった汚い空が愉快で仕方がなかった。
醜い影絵が空を覆ったように見えて。
思わず足を踏み外せば送った影に僕も覆われるのだろうな。
静かな情熱
もう辞めてしまおうと思った。
こんなに続けてたって生きてけないって、もう意味ないって。
それでも辞めらんなくて、こき下ろされても諦められなくて。
でも、それでもようやく踏ん切りついて全部全部、
今までの分を纏めて潰してぐちゃぐちゃにして。
やっとの思いでも捨て切らん無くて、
残ったもんは忘れたふりした。
それでも。
そんなになっても。
心の奥底で燃えている。
焔が煌々と、赤より熱く、青々しく蒼炎となっている。
もう道具もない。
さきを示す光もない。
だから、そうなったから。
今尚煌々と焚き付けられている。
この逆境を薪に、静かな情熱が火の粉を吹いた。
未来図
明日は早く起きようね。
明日は絶対ご飯を食べきってね、
明日こそは電車に間に合わせてよ
明日は、明日は絶対、明日こそは、明日だけは。
どうにも間に合わないことばかりで、
とうとう親に定められた未来図というものは破綻した。
逃げ出した俺はとうとう行き倒れて、道路に横たわった。
決めつけられてきた人生で、一人で生きる術など知る由はなかった。
霞む視界にぼやける景色。
なんとなく死ぬんだなって思った。
皆に囲まれて死になさい。
決められた人生の最後の図。
蔑まれて囲まれて、ふざけて撮られる写真達。
それだけ守れたことに安堵した。