大狗 福徠

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3/1/2025, 3:16:56 PM

私は困りあぐねていた。
目の前に咲くは桜に桔梗、秋桜、椿。
それどころか庭に植えてあり全ての花々が開花している。
今の季節は冬。
椿やら牡丹はよかれども、その他の花々は全く季節ではない。
この家を貰い受け、荒れ果てた庭を整えもはや半世紀。
このようなことは今までになく、書物を調べても類似の現象は見当たらなかった。
咲いて、散る分にはまだいい。生きているのだから。
ただこのように季節外れに咲くのはこの子達にとってよくはない。
咲くこと、咲き続けること。
それに使う力はばかにはならない。
花の終り、散った末にこの子達は耐えきれず枯れてしまうのではないか?
私と人生の大半を共にしたこの子たちを、私は一斉に失うのか?
そんなことを思っていても、花の延命は出来やしない。
方法はあれど、このような敷地や立地では実行してやることが出来ない。
花が散り、じきに皆枯れて朽ちてしまった。
時期の子たちも、釣られるように狂い咲きのあとに朽ちた。
せめて弔ってやるべきなのだろうが、今はその気が起きない。
春になってようやく、皆に向き合う事ができた。
締め切った障子を開け、とうに荒れ果てているであろう庭を見る。
そこには、数多の新芽が芽吹いていた。
ああ、長年生きたお前たちはわかっていたのだな。
もう己の体が持たないことを。
だからああして、死期を早めてでも子供を残したのだろう。
置いていくのではなく、共に生きるために咲いてくれたのか。

3/1/2025, 2:37:51 AM

一人でよかったのに。
誰にも目を向けられず、この世に恨みを抱かせて死なせてくれればよかったのに。
あんたが来てしまったから。
愛なんて教えたから。
おれを温めたから。
そして、全部中途半端なままおれより先に死んだから。
一人よりずっと辛いんだ。
こんな寒さがつきまとうんだ。
涙さえ、流す前に凍っておれの体を冷やしていく。
あの日のぬくもりさえなければいいのに。
あんたがおれにあわないで、好きに生きてたらよかったのに。
あったかいままでいたらよかったのに。

2/27/2025, 10:06:53 AM

帰り道の玩具屋の前で何時も私は立ち止まる。
ショーウィンドウの中には、
沢山のかわいらしいおもちゃ達がいる。
その中の、一番隅に追いやられた子。
その子のためだけに私は今バイトをしている。
他のおもちゃに隠れてよく見えなかった値札は恐らく5桁を超えている。
それが売れ残った理由なんだろう。
同じ種類の子も何体か残っていた。
ショーウィンドウのあの子含めて、その子たち全員を迎え入れるために今まで奔走してきたんだ。
一等素敵な君。
今日は立ち止まるだけじゃない。
もう十分なまでに稼いできた。
みんなを丁寧にカゴに並べてレジへ連れて行く。
こない間に値引きされていたのだろう。
思ったよりも安かったこの子たちの頭を撫でながら家へ向かう。
ようやく家に着いて、改めてみんなを眺める。
ああ、さいっこうにかわいい!!!!

2/25/2025, 11:04:51 AM

真夜中、そろそろとベッドから抜け出したら、
手当たり次第に本を引っこ抜いて、
卓上ライトをかっさらってベッドに戻って。
掛け布団に潜り込んで自分の体と卓上ライトで空洞を作り出して。
そしたら飽きるまで本を読んで。
ちゃんとジャンルごとに分けたから適当でも大体は冒険記の本になってる。
そうやってしてたら、だんだん自分も冒険してる気がしてきて好きなんだ。
僕は外へは出れないからこうしてる。
体が弱いのはどうしようもないけど、それで諦めてやれるほど可愛い僕じゃない。
精一杯抗って、外のことを考えて、いつかの未来に期待するくらいの可愛げはあるけれど。
ほんとに外を歩いた人たちの本。
洞窟へ潜ったり、山へ登ったり、森を開闢したり、
今の僕には到底できないことを見れる本。
今日も見るしか出来ない外を夢に見れるように本を眺め続ける。
記憶に強く残ったものを夢に見るなら、今日だって外の夢を見れるはず。
もし夢に見れたら、そうしたなら。
僕は嬉々としてまた冒険するんだ。

2/24/2025, 9:14:16 PM

今日も今日とて一輪の花を添える。
窓際に並ぶそれらは何も言わずこちらを眺める。
私も何を言うでもなくそれらを眺める。
しばらく互いに眺めあって満足したあと階下に向かう。
いつものように夜の仕度を終わらせる。
ベッドの毛布に挟まりこみ、明日をどうするか考える。
ギリギリの精神状態で運営されている私の脳は碌な思考を弾き出しはしないが、この考える工程をやめてしまっては二度と社会へ戻れやしない気もする。
私とて考える葦なのだ。
尊厳程度のものはもう二度と失いたくはない。
二階の窓際の、日に焼けてセピアになった花々を思い出す。
恐らく私も今ああなっているのだろう。
日が暮れていくのを止められぬように色褪せたものは元には戻せない。
私が殺した花々を私は救えやしないのでその詫びに花を供え、そしたまた花が死ぬ。
一番最初に供えた理由は忘れたが、医者が言うにはそれが療養を終えるにあたって一等大切なものらしい。
大方何かへの献花だったのだろうがその相手が思い出せない。
飼っていた動物か、己の家族か、はたまた自分自身か。
今日も今日とてわからぬままに一輪の花の犠牲を重ねた。

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