羽衣ルイ

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7/30/2024, 12:16:45 PM

澄んだ瞳

僕は恋をした。一目惚れだった
完璧な彼女に恋をしたその日から、僕の日々は輝きだした

彼女は少し警戒心が強くて、特定の場所でしか会ってくれない
個室のような場所なんてもっての外
それでも、会ってくれるから僕は嬉しい

彼女は恥ずかしがり屋で、あまり話しかけてくれない
僕が気付けないだけで実は話しかけてくれているのかもしれないけど、何か言ったか尋ねても返事はない
耳が少し不自由なのかもしれない

まっすぐに前だけを見つめる彼女が僕は何より大好きで
その澄んだ瞳に僕が映るだけでも光栄で
額縁に囚われた彼女に今日もまた、会いに行く
一度でいいから、微笑みかけてほしいな

7/28/2024, 2:24:03 PM

お祭り

提灯照らす道の中
人々の波の中にその人はいた
和服に狐の面を被った人
背が高いからきっと男の人だろう
笑顔が溢れる視界の中に
ただ1人、顔が見えない狐のお兄さん

「(あ。目が合った)」

私を見つけたその人は
人ごみをぬるりと交わしながらこちらへ歩いてきている
面の中の瞳が僅かに見えるだけで
何を考えているのか、なんて分からない

「きみ、私が視えているのかな?」

ゆっくりと首を縦に振る
この場に似合わない緊張感が走る
本能的に感じた危機
目の前の人物は人間では、ない

「なぜ1人でいるのか聞いても?」
「約束してたんだけど…急に来れないって言われて…」
「なるほど。なら我々は2人でひとりぼっちなわけだ」

笑ってみせた狐のお兄さんだけど
なぜか私には寂しそうに見えた
無意識に動いた両手は彼の面に触れる
するとゆっくり首を横に振って私の手を取った

「私の顔は醜いから」
「でも…」
「私自身、何年も顔を見ていないから、想像よりもっと醜いかもしれない」

優しく、それでもってはっきりとした拒絶
これ以上、彼を暴くのはお互いによくないかもしれない
何も触れる事ができない両手は彼によって虚しく下ろされた

「人間のお嬢さん、私はそろそろあちらへ帰るよ」
「また、会えますか…?
「忘れなさい。私のことは」

あぁ、この人はなんて矛盾しているんだろう
誰かと繋がりたくてこちらにやって来たのだろうに
自らそれを断ち切ろうとしてるなんて
本当に自分が分からないのかもしれない

「…いつの日か。私の命が果てる日に会いに来てください。私の思い出を一日中語ってあなたを楽しませてみせます」

返事は無かった
それでも彼は、小さく笑いながら、人ごみの中に溶けて消えた

7/27/2024, 12:20:51 PM

神様が舞い降りてきて、こう言った

知ってるよ
君が私の家を毎日綺麗にしてくれていること

「境内の掃除は終わった?」
「終わった。だから学校行ってくるね」
「いってらっしゃい。気をつけてね」

よく学校と呼ばれるところに遊びに行くけど
いろんな事を学ぶ場所らしい
彼女も黒い板と睨めっこしてるのを見るけど
たまに寝ているのがかわいい

知ってるよ
彼女はとても信仰心が強いこと
きっとそれは私の住む家を管理する家系に生まれたから、というのもあるのだろうけど

「明日の模試がうまくいくようにお参りでもしようかなぁ…?」
「神頼みが悪いわけじゃないけど、お参りって本当は願いをしに行くんじゃなくて、神様に感謝の祈りを捧げることなんだよ?」
「へぇ…!さっすが!物知りだね!」
「そうかな?」
「ちなみにさ、神様って存在すると思う?」
「ん〜…どうだろ。習慣だから境内の掃除とかしてるけど、運がいいわけじゃないしなぁ…」

…あれ?

「神社の宮司さんの娘がそんな事言っていいの!?」
「まぁそこは信仰の自由というものがありますから!」
「まぁそうだよねぇ」

…信仰心は…!?

「もしも神様がいるなら金髪のイケメンと十字路でぶつかって恋が始まりますように!」
「なにそれww 典型的すぎるww」

知らなかった
もしかしたら私にも知らない彼女の素顔が他にもあるのかもしれない
彼女のことなら全て知ってると思ってたのに



神様を軽く貶した次の日
私は壮大に寝坊した
しかも今日は模試なのに!!

慌てて身支度を済ませて全速力でいつもの道を走る
右に曲がる交差点にさしかかった時
思い切り私は誰かとぶつかった

「っ、すいません!大丈夫で…す、か?」

ぶつかったのは金髪のイケメン
あれ
なんか
このシチュエーションって…


神様が舞い降りてきて、こう言った
「私の知らない君をもっと教えてほしいな」
「いやいやいや!それどころじゃないから!!」
「え!?」



7/26/2024, 12:51:40 PM

誰かのためになるならば

私は魔法使い
ただの魔法使いではない
他の魔法使いに殺されないようにいろんな魔法を学んだ
たくさん魔法を使えるように魔力の向上にも努めた
それは全て自分の為に
結果、私はいつしか大魔法使いになった
周りは皆、私を見ると恐れをなして頭を垂れる
自分のために頑張ったら
いつしか私は独りだった

ある日、私の元に人間がやってきた
私たちより短く儚い人生を生きる人間は
私に魔法を教えてほしいと願った
物覚えが悪く、何度も失敗を繰り返していたけれど
それでも懸命に呪文を唱え続けた

「なぜ、そこまでして魔法を使いたいの?」
「私たちは1人で生きてはいけません。なので共に生きるために魔法を使いたいのです」
「共に生きるのに、魔法は必要なのか?」
「はい。生まれつき体の弱い私は、たくさんの人に支えられているのです。なのでそのお返しに

水を作れば花は咲き、花は笑顔を運ぶのです
火を作れば食物を焼き、生きるための糧になります
風を作れば涼を生み、濡れた衣服も乾かします」

その言葉に私は悟った
彼女は自分のために魔法を使わないのだと
支えてくれた人間のため
もしかしたら誰かのために使うつもりだと

「…せいぜい励むといい」

誰かのために魔法を使えなかった私のかわりに

7/25/2024, 10:30:21 AM

鳥かご

自由に動く事ができない私は
毎夜、自由に羽ばたく夢を見る
空を羽ばたく私を見て
あなたはどう思うのかしら

僕に与えられた役目
それはあなたを守ること
世界はとても残酷で
僕はただ、閉じ込めるて守ることしかできなかった

日々を鳥かごの中で生きるている
いつもあなたは違う服を着て微笑むけれど
私にはもう、それすら「何も変わらない」風景に成り果てた
この風景の先を私は見てみたいと願う

あなたは僕に微笑むけれど
あの頃の包み込むような笑顔はもう久しく見ていない
これはきっと罰なのだろう
それでも僕は甘んじて受け入れよう
あなたがいてくれれば、それでいい

ついにこの日が訪れた
鳥かごの扉が開けっぱなしになっている
念願の外の世界に飛び出した
もう2度と捕えられないように
自由を奪われないように
必死に駆け出した星空の下

「やっと見つけた」

聞き覚えのない仄暗い声
突然の衝撃
広がる星々
これはきっと罪なのだろう
空を飛べるようになった鳥は
歪んだ狩人に捕まった

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