お祭り
提灯照らす道の中
人々の波の中にその人はいた
和服に狐の面を被った人
背が高いからきっと男の人だろう
笑顔が溢れる視界の中に
ただ1人、顔が見えない狐のお兄さん
「(あ。目が合った)」
私を見つけたその人は
人ごみをぬるりと交わしながらこちらへ歩いてきている
面の中の瞳が僅かに見えるだけで
何を考えているのか、なんて分からない
「きみ、私が視えているのかな?」
ゆっくりと首を縦に振る
この場に似合わない緊張感が走る
本能的に感じた危機
目の前の人物は人間では、ない
「なぜ1人でいるのか聞いても?」
「約束してたんだけど…急に来れないって言われて…」
「なるほど。なら我々は2人でひとりぼっちなわけだ」
笑ってみせた狐のお兄さんだけど
なぜか私には寂しそうに見えた
無意識に動いた両手は彼の面に触れる
するとゆっくり首を横に振って私の手を取った
「私の顔は醜いから」
「でも…」
「私自身、何年も顔を見ていないから、想像よりもっと醜いかもしれない」
優しく、それでもってはっきりとした拒絶
これ以上、彼を暴くのはお互いによくないかもしれない
何も触れる事ができない両手は彼によって虚しく下ろされた
「人間のお嬢さん、私はそろそろあちらへ帰るよ」
「また、会えますか…?
「忘れなさい。私のことは」
あぁ、この人はなんて矛盾しているんだろう
誰かと繋がりたくてこちらにやって来たのだろうに
自らそれを断ち切ろうとしてるなんて
本当に自分が分からないのかもしれない
「…いつの日か。私の命が果てる日に会いに来てください。私の思い出を一日中語ってあなたを楽しませてみせます」
返事は無かった
それでも彼は、小さく笑いながら、人ごみの中に溶けて消えた
7/28/2024, 2:24:03 PM