天津

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1/10/2023, 6:39:14 PM

20歳

「20歳のうちにしておくべきことはなんだろう」
かつて大学の友人がそんなことを口にした。友人はその日誕生日を迎え、成人したばかりだった。
「20歳でいられるのは人生でこの1年きりだからさ、なにかしておきたいんだよね」
何を言っているのだこいつは、と冷ややかに思った。19歳でも21歳でも56歳でもその理屈は通用するだろうに。
参考までに君は20歳のとき何をしたのか、と訊かれた。浪人していてすでに21歳だった自分は、何もしていないと答えた。
当時の自分は節目に対する感受性を失っていた。それどころか、持て囃すことを悪だとすら思っていた気がする。年明けも昨日までの日付変更と地続きのルーティンにすぎず、サイドから騒ぎ立てることで価値が無理やり生み出されているだけだ、などと思っていた。
だから、友人の発言が馬鹿げているように感じ、少し苛立ちを覚えた。そう解釈していた。
2年経って、大学1年の友人が「何者かになりたい」と話すのを聞いた。もうすぐ20歳になってしまう。それまでに何かしておかなければならない。
それを聞いて、最初の友人の発言をなんとなく連想した。やはり少し変な発言だったと思いつつ、羨ましく感じた。二人とも、何かになれる余地が今の自分以上にあったのだ。
そうした可能性の境界がどうやら20歳くらいらしいとは既にうすうすと感じていた。才気ある人が力を発揮して活躍し始めるのが、大抵その前後だから。
その頃ずっと薄ぼんやりと胸のうちにわだかまっていた焦燥が、形を与えられて重くのしかかってきた気がした。20歳という数字にはもう少しこだわっても良かった。焦るべきだった。焦った分だけ人は何かをしようとするから、その分だけ曲がりなりにも進むから、だから節目を色々用意して焦りまくるのが妥当なのかもしれない。

2023/01/11

1/9/2023, 8:37:23 PM

三日月

草木の息遣いすら聞こえる夜の静寂

幽かな月明かりに戯れる陰陽魚

つり上がった口角

下がった目尻

切った爪



眉間の皺

シーツの皺

額の汗は弧を描く

閉じたクレセント錠

窓の外に遠く冴ゆる三日月

2023/01/10

1/9/2023, 6:53:07 AM

色とりどり

プリズムのような人間になりたい。
何の変哲もないありふれたものから、無限の良さを引き出して机の片隅を彩るような、そんな存在になりたい。

2023/01/09

1/8/2023, 5:38:23 AM



駅の改札を抜け外を見ると、電灯に照らされて白いものがちらついて見えた。
雪だ。
外に出て見上げると、暗い空を背景に白い粒がはっきりと見える。画面全体を埋め尽くす白の点描が、この世のものとは思えないくらいにゆっくりと、絶え間なく迫ってくる。その雪片の動きをただただじっと見つめる。その間、気づくと呼吸を止めている。
雪は音を吸収するという。降雪は空気中の振動を吸収し、積雪があれば地面の音の反射も軽減される。
しかし雪の日が静かな理由は、それだけではない気がする。人々が雪に魅入られて息をひそめるから、でもあってほしい気がする。
2023/01/08

1/6/2023, 7:05:38 PM

君と一緒に

君の言葉には毎度動揺させられた。
幼い子供のような抜けた倫理観で、面白いけれどたまに笑えなかった。ところどころ相容れないなと感じつつも、一緒にいて飽きない人だった。
君はラフに好意を口にした。その好意に戸惑った自分は毎回それを受け流していた。君の言い方が軽かったから、そのやり取りはコントのように見えたけれど、わかっていた自分は卑怯者だった。
君はよく不安定な話をした。それまでそういう類の人が周りにいたことはなかったから、聞いているこちらも不安になったが、当人があっけらかんとしているから、そういうものかと納得した。
君はある頃からぱたりと音沙汰がなくなった。
君が多忙だろうことは色んな事情から容易に想像できたから、あまり心配はしていなかった。自分が何かを与えられていたようにも思っていなかったから、拒絶されている線も覚悟していた。臆病でコミュニケーションが下手な自分は、自分から問いかけることをしなかった。
忘れた頃に、友人づてに訃報が届いた。
やはり自分では不十分だったのだ、と思った。捌け口にもなれなかったのだ。
話によく名前が上がっていた、とあとで君の友人から聞いた。後悔の念が募るばかりだった。
君と一緒に、もっと話がしたかった。しておけばよかった。
2023/01/07

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