天津

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20歳

「20歳のうちにしておくべきことはなんだろう」
かつて大学の友人がそんなことを口にした。友人はその日誕生日を迎え、成人したばかりだった。
「20歳でいられるのは人生でこの1年きりだからさ、なにかしておきたいんだよね」
何を言っているのだこいつは、と冷ややかに思った。19歳でも21歳でも56歳でもその理屈は通用するだろうに。
参考までに君は20歳のとき何をしたのか、と訊かれた。浪人していてすでに21歳だった自分は、何もしていないと答えた。
当時の自分は節目に対する感受性を失っていた。それどころか、持て囃すことを悪だとすら思っていた気がする。年明けも昨日までの日付変更と地続きのルーティンにすぎず、サイドから騒ぎ立てることで価値が無理やり生み出されているだけだ、などと思っていた。
だから、友人の発言が馬鹿げているように感じ、少し苛立ちを覚えた。そう解釈していた。
2年経って、大学1年の友人が「何者かになりたい」と話すのを聞いた。もうすぐ20歳になってしまう。それまでに何かしておかなければならない。
それを聞いて、最初の友人の発言をなんとなく連想した。やはり少し変な発言だったと思いつつ、羨ましく感じた。二人とも、何かになれる余地が今の自分以上にあったのだ。
そうした可能性の境界がどうやら20歳くらいらしいとは既にうすうすと感じていた。才気ある人が力を発揮して活躍し始めるのが、大抵その前後だから。
その頃ずっと薄ぼんやりと胸のうちにわだかまっていた焦燥が、形を与えられて重くのしかかってきた気がした。20歳という数字にはもう少しこだわっても良かった。焦るべきだった。焦った分だけ人は何かをしようとするから、その分だけ曲がりなりにも進むから、だから節目を色々用意して焦りまくるのが妥当なのかもしれない。

2023/01/11

1/10/2023, 6:39:14 PM