あのシーンが良かったと談笑する貴方の話が、いやに気になって聞き耳を立てるなんて、私らしくもなかった。
一方の貴方はきっと最初から見抜いていて、褒められない行為をする私に、一番穏便に済ませられる対処をしただけ。
じゃなきゃ、それほど仲がいいわけでもない私に、あんな、眩しいほどの笑顔、もとい光線を浴びせるなんてのはしない。
ついに来てしまった。
見るからに私好みの映画の予告を一瞥し、真っ先に券売機へ向かう。
一生縁はないと思っていたのに。そのきっかけも。
これから私は、漫画の実写映画を見る。
「小さな勇気」
野良猫って本当にいるんだな。
そう思いながら、走り去った黒猫を見やった。
やっぱ夜の散歩は心地いい。特に今日は気分がいい。
何せお手本のような三日月の夜、黒猫に出会ったのだ。
これほど…『月に吠える』ような夜もないだろう。
後必要なのは おわ「わぁ、こんばんは!」…え
思わず振り向くと人が二人いて、たまたま知り合いと出会ったらしかった。
心臓がうるさい。
君の声で、僕に呼びかけられた気がしたのだ。
「わぁ!」_「猫」 萩原朔太郎『月に吠える』
“芸術に終わりはないんです。
仮に作者から独立しても、必ず誰かの琴線に触れて生き続ける。そこに良し悪しは関係なく”
そんな物語を書けるようになりたい。
熱弁をふるう僕に、笑顔で一言、
「そういうことなら大丈夫だよ
君の物語は終わらせられないから 私が」
即答できるわけがなかったけど自惚れたい、良いよね?
「終わらない物語」
世界を手に入れたと
いたずらっぽく笑う君の手には地図帳
それならと
手荷物から『宇宙の教室』を引っぱり出して重ねた
これで全てが君の手にあることになるでしょ?
君の瞳にうつる世界が一番きれいなんだから。
「手のひらの宇宙」
じゃあジャングルジムでねー!
少年たちが僕の横をすり抜けて、颯爽と駆けていく。
放課後がやってきたのだ。
頭の中に刻みつけられたジャングルジムの言葉が、懐かしい気持ちを呼び起こす。
僕は普通に登るのはつまらないと鬼ごっこばかりしていた。ジャングルジムで。
あれは今思えば危なかったと思う。
というか普通に遊びたかった人は迷惑だっただろうな。
あの頃はクラスを超えて友達ができた。
…好きな子だって。
爆音で現実に戻された。防災無線か。
せめて君とは再会したい。
「ジャングルジム」