手を繋いでデートすることが憧れだった
世の中のカップルがそうしてるように
ごく普通に
好きな人と指を絡めて
人の温もりをそばで感じて
少し照れたりなんかして
それを茶化して茶化されて
そんな普通のカップルみたいな普通の恋愛
それに憧れた
ハグしてなんて、キスしてなんてそんな贅沢は言わない
だから、せめて手だけでも...
隣を歩く俺より少し大きな君のその手に触れて
手と手を絡めて...
「どうしたの?」
目の前のカップルを見て時間が止まった俺を隣の君が
心配そうに見つめる
「ううん、なんでもない」
君と手が繋ぎたいなんて、そんなこと言えるわけなくて
とっさに出ていた手をポケットにしまって
俺は首を横に振る
「全然なんでもないって顔してないけど」
俺の心を見透かしてるようなそんな目をして
君は俺の目を見据える
「いや、ほんとなんでもねぇよ?大丈夫」
君の瞳に負けじと、俺も君を見据えて言った
「...そっか、まぁ無理には聞かないけどさ、なんかあったら言ってよ?」
「お、おう」
俺は軽く返事をして、君から顔を逸らした
逸らした先にはやっぱりカップルがいて
羨ましいなぁなんて思っちゃったりして...
沈黙が気まずくなって、君の方を振り返り声をかける
「なぁ、次、あそこ行かねぇ?」
そう言うと君は心配そうな顔から笑顔に変わって
「うん、いいね」
と言う
「ほんと?よっしゃ」
喜び半分、君が笑顔になった嬉しさ半分で君から視線を逸らす
「じゃあ、はい」
少し後ろから君の声がした
振り返ると、そこには片手を僕に向かって笑顔で差し出す君の姿があった
「ん?」
「あれ?手繋ぎたいのかと思ったんだけど、違った?」
君は笑顔で優しい声色で、僕にそう告げる
「手繋ぐの、別に変なことじゃないよ?だって、僕たち恋人同士なんだし」
君はやっぱり俺の思ってることを見透かしてるみたいだ
俺が何を思って、何を悩んでるのか
何も言ってないはずなのに、なんでか分かってくれる
君はすごい
君が恋人でよかった
「ほら、手、繋ご?」
改めて差し出された手を、俺は戸惑いつつもそっと握る
「...ありがと」
俺より少し大きい手は俺の手を強く握り返した
「手を繋いでデート」俺の憧れ
これからは、俺らの当たり前
お題:『手を繋いで』
鏡に写ったワタシが喋る
『あなたとワタシは運命共同体、ワタシはあなた、あなたはワタシ、この運命からは逃れられない
あがいても無駄、どんなにあなたが拒否しても、ワタシがこの手を離さない限り、あなたとワタシは離れられない
諦めてこの現実を認めなさい、あなたはワタシ、ワタシはあなたなんだから』
「......ハッ」
短い息が口から漏れ、ベッドから飛び起きる
思い出せない、でもとっても嫌な夢を見ていた気がする
初めてじゃない感覚
私が私じゃないような、そんな何度も何度も繰り返すような不安感
ふと、自分の手を見つめる
確かに私の手のはずなのに、私じゃないような...
感覚を確かめるように手を握って開いてを繰り返す
手のひらに少し伸びた爪が当たって、ピリッとした痛みを引き起こす
大丈夫、ここにいる私は確かに私だ
そんな確認をして、ベットから立ち上がる
普通に仕事があるのだから、そろそろ起きなくてはいけない
寝起き特有の少し重い体を揺らしながら洗面台へ向かった
洗面台の前に立ち、鏡を見る
「うん、いつも通りの私だ」
起きた時に感じた不思議な感覚を、嘘だと自分に思い込ませるようにそう呟く
瞬間、鏡の中のワタシの口角が上がった...気がした
「えっ?』
世界が回る
まるで鏡の中に引き込まれるように
次の瞬間私は鏡の前に立っていた
さっきと変わったのは私の周りに何も無いこと
そして鏡に映る知らないワタシの姿
『ここはなに?!ねぇ!ここからだしてよ!!』
私は必死に鏡の前の知らないワタシに叫びかける
そんな私を無視して
ワタシはさっき見た不気味な笑顔で私に告げる
「だから言ったでしょ。私はアナタ、アナタは私この運命からは逃れられない
あなたはこれからそっちの世界でワタシとして生きていく
せいぜいそっちの世界でワタシの人生を楽しみなさい
じゃあネ」
......手が、 離れた
本能的に感じた感覚
ふふっ...
という笑い声を最後に私はワタシを置いていった
『おねがい、ここから だし テ......』
お題:『あなたとわたし』
「眠りにつく前に、君がしたいことは何?」
彼女はそう、僕に問いかけた
「眠りにつく前...?それって、寝る前ってことですか?」
「...まあ、そういうことさ」
彼女は曖昧にそう答えた
「そうですね、ホットミルクを飲みたいですかね。最近寝付きが良くなくて、だからホットミルクを飲むようにしてるんです」
「そうか、体が温まると寝やすくなると言うからな」
「はい、それのおかげか、昨日はぐっすり眠れました」
「それはよかった」
彼女は少し間を置いて...ぽつ...ぽつと言葉を続けた
「今夜、眠る前に家族のことを思い出すといい」
「自分を取り巻く大切な人のこと、学校のことみんなのことを思い出して眠るといい」
「...なんでですか?」
「きっとその方が、良い眠りにつけるだろうからな」
「そうなんですか、じゃあ試してみますね」
彼女との会話はそこで途切れた
終わりを告げるチャイムが鳴り、僕と彼女は別れの挨拶を交わした
家に帰ってベッドに着くまで僕は妙に彼女の言葉が気になっていた
『大切な人を思い出す、自分の周りのこと、みんなのことそうすればいい眠りにつけるだろうから』か...
どういう意味なのだろうか
僕はパジャマに着替えホットミルクを入れた
彼女の言葉の意味を考えながら、ゆっくりゆっくりと体の中にホットミルクを注いでいく
体全体がホッと温まる感覚を楽しみながらベッドへと移動する
ベットに入り目を閉じる
彼女に言われた通り、自分を取り巻く周りの人、大切な人を思い出しながら
最近あったことみんなのこと楽しかったこと、悲しかったこと
不思議と、みんなの笑顔が鮮明にまぶたの裏に映し出されていく
...もちろん今日話した彼女のものも
そうこうしてるうちに僕は眠りについた
暗闇に一筋の光が現れる
その光は街の夜空には似つかわしくないとてもとても明るい光だった
光は今までにないほど強く輝いたと思うと
次の瞬間、けたたましい轟音と共に隕石が街に衝突した
その強い強い光は一瞬にして、街全体を包み込み、あたかもそこが元から更地であったかのように全てを消し去っていった
永遠の眠りにつく前にどんなことを思い出そう
もし今日眠りについたら全てが終わってしまうなら
どんなことを考えよう、何をしよう
...あなたならどうしますか?
お題:『眠りにつく前に』
...ポロッ
ふと、料理をしている恋人の方を見ると
その綺麗な瞳から一粒の涙が落ちた
「っ!どうした?!大丈夫っ?!」
私は焦ってキッチンにいる恋人に駆け寄る
「どっか痛い?何かあった??」
捲したてるように恋人に詰寄る
恋人は首を横に振りながら袖口を使って涙を拭っている
私は恋人のそんな姿にさらに心配になり、肩を抱き寄せて自分よりも小さな体を自分の胸に閉じ込めた
「大丈夫?職場とかでなんかあった?気づけなくてごめんね。なんかあったなら教えて欲しい...」
恋人の不安な心を刺激しないように頭を撫でながら、落ち着いた声を意識して話しかける
「...違うの」
恋人が胸の中でそう呟き、後ろに置いてあるまな板を指差す
「...え?」
そこには切っている途中であろう玉ねぎが置いてあった
「あれって...」
「そう、玉ねぎの汁が目に入って涙が出てるだけなの、勘違いさせてごめんね」
下から見つめてくる恋人は申し訳なさそうに眉を下げた
勘違いした自分が恥ずかしくなって勢いよく恋人から離れる
「いやいや!こっちこそごめん!!早とちりした!」
今の私、絶対に真っ赤になってる
めちゃくちゃ恥ずかしい...
まぁ、でも
「何事もなくてよかったぁ...」
真っ赤になった自分を見つめて笑顔になった恋人を抱きしめて、そう呟いた
お題:『涙の理由』
「うわー、溶けるぅ…」
8月のジリジリとした太陽が僕の皮膚を焼いていく
「暑すぎだろ、なんでこんなに暑いんだよ…」
「まぁ、夏だからね」
横からひまわりのような明るい声が聞こえる
「お前よくそんなに元気でいられるなぁ」
僕は横でスキップしながら歩く、麦わら帽子の君に少し感心する
「だって、夏だよ?色々できるじゃん!夏祭りとか、花火とか…あっ!かき氷食べたい!」
なんてのんきな話を聞きながら
僕は、じりじりと照らす太陽の存在を思い出す
早く冷房を効いた所に行きたい…
冷房ガンガンに効いたところで毛布にくるまってアイスを食べたい
なんて、地球温暖化の観点からみたら怒られそうなことを思う
まぁ、なにしようが俺の自由だし…
「あっ、そういえばこの後暇?」
ふと、思いつき君に問いかける
「この後?うん、暇だよ」
「じゃあさウチ来ない?一緒にゲームしよ、お前とやりたいゲームあったんだ」
と、こないだ見つけた二人プレイ用のゲームを思い出す
「え!いいの?やったー!!」
君は大袈裟に両手を挙げて喜んだ
暑いのによくそんなにはしゃげるなぁ…
なんて思いながら2人並んで僕の家までの道を歩く
君と一緒にいる口実が作れるなら、この暑さも少しは悪くないかもしれない、なんて思いながら
お題:『太陽』