【 拝啓 , 親愛なる君へ 】
やぁ、ワトスン。前までの暖かい季節が嘘のように去っていってしまったね。今はもう肌寒いほどだ。
コートを買ったんだ。茶色の暖かそうなコートをね。
君が居なくなってから、君が好きそうなものばかり選んでしまっているよ。食べ物も、雑誌も、服装も。
君が隣にいないとやっぱり変な気分だ。
椅子が一つ空いてるだけなのにな。全くおかしなことだ。
ワトスン、もし君がこの手紙を読んでいるのなら、笑ってくれるかい?
君がいなくなったのは、もう随分と前なのに、未だに寂しくなってしまうんだ。
返事は書かなくてもいいぜ、ワトスン。
君が読んでくれたらいいんだ。
僕が、そっちに行った時はまた、
一緒に冒険をしてくれるかい?ワトスン__いや、
【 身を蝕む純愛 】
「ふ、っ……ぐ……ッ」
まだ夜は明けていない薄暗い部屋の中、自分の声だけが聞こえる。苦しみ、痛みをこらえる声。
禁術を犯す度、痛みが増してゆく。手が震え、死んだ神経に激痛が走る。痛みで気を失いそうになる。が、それも痛みで目が覚める。
何故、ここまでするのか。そう問い出す人もいるだろう。
ソーサラースプリームだから、世界を救う為だと勝手に思い込む輩もいるだろう。
否、私はただ彼女が幸せでいられるために……
彼女を守れたら、まだ人間の私で守れたら…
私が死んでも悲しまないように、嫌われた。
傲慢な皮を被り、彼女を突き放した。
ぐちゃぐちゃな、
けれど、
優しい
醜く歪んだ純愛だと、
【 幸せな日 】
暖かい。前迄は冷たい風が頬を刺したのに、今では暖かく優しい風が頬を撫でてくる。目に髪がかかるのを手ではねながら、暖かいNYの街を歩く。
今日は異次元からの敵は今のところ感知していないし、気配は感じられない。ストールの形をしているクロークが、ちょいちょいと私の顔をつつく。つつかれた場所を触ってみると、風に吹かれてきた花弁が顔についていた。
可愛らしい、青色の花。
まるでどこかの異次元を移動できる少女によく似た花だと思った。
「クローク、今日は本屋にでも行こうか。」
そう話しかけると、クロークは私の頬を撫でる。
一般人からしたら、暖かく天気の春爛漫とした日
私、いや私達にとっては、幸せな日
【春爛漫】
【 独 】
愛した彼女は、私の腕の中で消えた。
私のせいで、死んでしまった。
彼女を救いたいという傲慢なエゴのせいで。
そのエゴが、彼女を殺してしまった。
私は、ただ、彼女を救いたいだけだったのに
いつからか、歯車が狂ってしまった。
私が狂わせてしまった
彼女を、私はただ、愛していた
愛していたかった。そのエゴのせいでこの世界は滅んだ
何度嘆いた
何度救おうとした
何度縋りついた
何度私を罰してくれと頼んだ
何度も、何度も、何度も、何度も
誰よりも、ずっと、愛していた彼女を、彼女が愛していた世界を、救ってくれと頼んだ
【 相棒 】
「待ってくれよホームズ!」
「ハハハ!こんな面白い事件、待ってなんて居られないよワトソン!!!」
ぜぇぜぇ。と息を切らしながらホームズの後ろ姿を追いかける。全く、君より私の方が歳老いているのをわかって欲しいものだ。いや、それは一生無理だろう。
ホームズの興味を引く事件だ。さぞかし“楽しい”ものなのだろう。少し立ち止まり息を整える。
「ワトソン、最近3ポンド太ったね?運動が足りていないんじゃないか?」
彼が大きな声で、それもロンドンの街中で言う。私は、恥ずかしい気持ちで、ホームズの方へ走ってゆく。心做しか、ホームズの目がキラキラと子供のように輝いて見えた。
「さぁ!僕のいない間の3ポンド分、僕と一緒に埋めていこうか」
「……ハハ!勿論だよホームズ!」
ロンドンの街には、探偵と退役軍医の声が響いていた。
【これからも、ずっと】