カーテンを開けると、見知った景色。
変わらない星空、変わらない夜、そして、
変わらない、青い球体。
あなた達に分かるように言うなら、ここは昔、宇宙ステーションと呼ばれていた場所。未だ開発途中ではあるが、地球を板で完全に覆ってしまう計画である、"アースイーター計画" が世界で進められていて、現時点で地球の赤道上に「環」のようなものが形成されている。
アースイーター第1区画第3位居住区、それが私の住んでいる場所。環の中に司令区、作業区、居住区が存在していて、その中の1番下、実験動物的な扱いをされているのが私たち。
このまま地球をガラスなどで覆えば、水素等の減少を防ぎつつ、太陽光の一部遮断を行い、地球温暖化現象を防ぐことが出来る。。。らしい。
私はここに来てまだ3ヶ月ではあるけど、この生活に慣れてしまった。毎日パソコンで仕事をし、食べ物を買い、遊ぶ。地上より幸せな生活を送れている。
はずだった。
突然環の一部が崩壊したらしい。崩壊した瓦礫はそのまま地球へ落ちて行ったそうだが、そこから酸素が流出し、廊下にいた私はそのまま宇宙へ投げ出されてしまった。
人間の肉体には宇宙環境に耐えられず、そのまま燃え尽きてしまった。
気がついたら、宇宙のど真ん中にいた。周囲に地球も見えず、1人寂しく、闇に飲み込まれていく。
深く、深く、落ちてゆく。
海の底へ落ちてゆく。
身体はボロボロで、
ついに耐えきれなくて、落ちてゆく。
私を助けようとしてくれたあの子は、
最後まで優しかったから、
すぐにこっちに来ないように願ってる。
考えながら、落ちていく。
青く、深く、堕ちてゆく。
今年の誕生日は、この人生で1番幸せだった。
新しくできた友達に祝われ、新しくできた可愛い彼女に祝われて、懐かしい友達からも祝われた。幸せな誕生日だった。
「今日は海に行こう!」
僕の誕生日は梅雨だが、今日の天気は僕の誕生日を祝うように晴れていた。そんな中、友達はそんな誘いをしてきた。
「…そんなに行きたい?昨日は雨だったし荒れてるから入れないと思うけど。」
そんなふうに返したが、見るだけでいいからと押し切られてしまう。仕方なく了承したが、どうなるだろう。
放課後になり、海に着いた。雨が降る様子は無かったが、海は荒れているようだった。
「で?何すんの」
「こいつだよ」
友達は、花火を取り出す。
「バケツなんか持ってきてねえよ」
「そこにバケツがあるじゃねえか」
友達は海を指さす。ふつうに犯罪じゃん。
とりあえず友達を説得し、付近に落ちていたバケツをこっそり借りて花火をすることになった。
まるで昔のように遊び、楽しむ。
ただの手持ち花火も、もっと子供の頃はよくやった。
夏を楽しむことなんて、近年は全然してなかったから、
久々に昔のように遊べて、とても楽しかった。
「もっと女とか呼べばよかったな」
友達が言う。
「バカ言え、俺らに女の気はないやろ」
「…悲しいこと言うなよ」
こんなふうにバカ騒ぎできるのも今年が最後。
来年はさらに遠くへ離れて行ってしまう。
せっかくの最後の夏、楽しむことにしよう。
誕生日の今日、どうやら梅雨明けだったらしい。
それを知った瞬間。夏だと認識した。
高校最後の夏の気配は、今まで感じた夏より暑く感じた。
家族と喧嘩して、耐えきれなくなって外に駆け出した 。
知っていた道がだんだんと移り変わり、知らない道に変わってきた。
息を整えようと辺りを見回した時、脇に鳥居へと繋がる階段があるのが見えた。
ふと気づいた時には足は神社に向かって歩を進めていて、疲れているはずなのにずんずんと階段を登っていく。
階段を登りきった時には日は沈みかけていて、麓の方を見ると自分の住んでいた街が一望できる綺麗な場所だった。
ふと、自分の街の近くにここまで高い山なんてあったっけって思ったけど、この綺麗な景色に掻き消されてしまった。
街並みをしばらく眺めて、はっと思い出したように神社の方に向き直ると、そこには昨日塗られたばかりじゃないかと思うほどの綺麗な朱色の鳥居と、それに不釣り合いなボロボロで寂れた一棟の本殿と思われる建物があった。
不思議と引き寄せられるように鳥居をくぐった時、突然本殿の建物が綺麗になった。そして、周囲の景色が一瞬で花畑へと変わったことで、僕はまだ見ぬ世界へ迷い込んだ気持ちになった。
帰ろうとすぐに振り返ったが、自分の街の景色は無かった。
どうやら僕は家出をしてすぐに交通事故に逢い、それに気づかずに黄泉へ渡ってしまったそうだった。
まだ見ぬ世界へ、旅立ってしまった。
あの人には、もう会えない。
(昨夜未明、○○市の交差点で歩行者とトラックが衝突する事故が発生しました。この事故で、歩行者の○○市内に住む○○さんが心肺停止の状態で病院に搬送されましたがその後死亡が確認されました。警察はトラックの運転手が逃走……)
朝食を食べながらテレビのニュースを見ていて、突然息が詰まる。息が荒くなる。
そこに映っていた交差点に見覚えがある。
そこに映っている被害者の名前に聞き覚えがある。
私が大好きで、そして私を愛してくれていたあの人だった。
でもなんで、
なんであの人が、
昨日、あの人を自分の家に呼んで、
夜になってあの人が泊まらずに帰ってしまって、
そして、、
「うがっ……」
突然頭が痛くなる。持っていた箸を落とす。現実を受け入れたくない。嫌だ。目の前が真っ白になる。
気がついたら、日が暮れていた。
何してたんだっけ。
そうだ、時間。
スマホを開くと、今の時間よりもたくさんの通知に目が行く。
「にひゃっ……」
287件の通知、55件の不在着信があった。
ほとんどが私とあの人の関係を知っていた人で、残りは会社からだった。不在着信のひとつに警察からの連絡もあった。
すぐに会社からのメールに目を通し、謝罪の文を打つ。
会社と友人全てに返信し終えた時には、時間は20時を回っていた。
そして、今から警察への折り返しの電話をかけるという時になってちょうど、警察からの電話がかかってきた。あの人について聞かれるのだろうと思いながら、震える指で電話を取る。
「……もしもし」
電話の内容は、被害者の携帯を確認したところ、通話履歴に名前があったため連絡した、だそうだった。
あの人との関係を話し、昨日会っていたことなど隠さずに話した。明日、こちらに来るらしい。その際、住所を聞かれたため答えた。
今日は色々なことがあって、随分疲れちゃった。軽く後片付けをして、今日は寝よう…。
次の日、起きてすぐにチャイムが鳴ったため、警察だろうと思いつつ覗き窓を覗いた。けど、警察じゃなかった。パーカーを着た見た事のない誰かがいた。
「どちら様ですか?」
一応ドア越しで声をかけてみる。
『警察です、早朝でしたので私服で来させて頂きました。』
納得してドアノブに手をかけて、止まる。
ありえない、普通なら制服で来るはず。刑事モノでもせめてスーツは着ているためおかしいと感じた。
『あのー』
急かすようにドアをドンドンと叩く音が聞こえる。
嫌な空気がして、すぐにチェーンをかけて110番をして警察に電話をかける。
出た人は、事件か事故か聞いてくる。
ドアを挟んだ先に不審者がいることを告げると、電話は繋いだままでドアを塞ぐように指示された。
同時に、再びドアを強く叩く音が聞こえる。
『おーい、すみませーん』
その声を無視して、ドアを塞ぎ警察の人が到着するのを待つ。
恐怖に耐えながら、3時間はたったかもしれない。そのくらいに感じた。
ようやく警察の人が来てくれて、その人は捕まった。どうやらあの人を轢いたトラックの運転手だったらしい。動機は分からないけど、あの人の携帯から私の名前を見つけて電話をかけてきたらしい。
その運転手は裁判にかけられ、逃げたことや余罪により終身刑を言い渡されていた。
あの運転手が言うには、あの人は最後にこんなことを言っていたらしい。
“あの子のとこに泊まっていけばよかったかな”
最後の声を知れてよかったけど、せめて、
自分の耳で、あの人の声で、聞きたかったな。