「よーっす、また新しいの持ってきたよ」
持ってきた炭酸飲料の缶を開ける。
「……」
「明日は今までで1番暑い日だってよ」
彼女が持っていた炭酸飲料の缶を奪い取り、今開けたものを渡す。
「……」
「今までも暑かったのにさらに暑くなるとかやんなっちゃうよな」
彼女から奪い取ったぬるい炭酸を飲みながら話し続ける。
「……」
「まあ夏なんてそんなもんか、少しくらい涼しくなってくれてもいいんだけどな」
「……」
「仕事はどうなのかって?最近は食事を届けてくれるサービスのせいで僕のお弁当屋は商売あがったりだよ」
「……」
「そのせいでお弁当は安く売らなきゃ買ってくれる人も少なくてね」
「……」
「あの配達員にもなってみようかな〜って思ったりして」
「……」
「…やだな〜冗談じゃないか」
「……」
「さて、そろそろ行くか。また明日も来るからね」
2年前、僕は彼女を殺した。
彼女が別れを切り出したから。彼女は浮気をしていたから。そして何より、僕が彼女を愛していたから。だから殺した。
彼女は怒っているだろうか、恨んでいるだろうか。
そんなことを考えながら、うだるような暑さの中、仕事に戻るために墓地を後にする。
ふと、背中に行ってらっしゃいと声をかけられた気がした。それだけでほんの少し、許された気がした。
真夏のオアシスは、
昼間は人々を集めて。
夜中は潮風で満ちてゆく。
真夜中のオアシスは、
昼間は少し寂しくて。
夜中は人で満ちている。
でも一部の人間は、
昼間は辛く苦しくて。
夜中も寂しく苦しくて。
そんな人たちに言ってみたい。
そのまま苦しくて渇くより、
幸せで潤っているほうがいいし。
人間は"利己的な"動物だからさ。
"自分の欲に従って生きても"、
学校を休んでも、
親に反抗しても、
責任から逃げても、
仕事を投げ出しても、
全てを捨てても、
何もせずそのまま命すら落としても、
それで潤うなら、
"それで潤っていいなら"、
そんなふうに生きてもいいんじゃない?
こんなことを言ってみたい。
でも、私は、
自分の欲を出すために「正しく苦しめる」ように生きるならいいと思うんだよね。
自分だけが苦しくて、周りが苦しくないのはおかしいんだよ。「自分以外の誰かが潤うため」じゃなくて、「自分だけ潤うため」とか「自分と大切な誰かが潤うため」に苦しむ。そんなふうに、生きる。そんな人たちで出来てる世界なんだから、自分も同じように"利己的に"、適度に苦しみ、適度に潤う。そんな生き方を目指して、私も生きる。
私のオアシスはネット。
ネットの海に潤うために来てる。
(でもたまに叶わない時もあるけど)
私は言ったよ。
あなたのオアシスはどこかな?
もしも過去へと行けるのなら、
私は、あの人の敵を討つ。
あの人は交通事故で亡くなった。
夜中に暴走したトラックにひき逃げをされてしまって、発見された時にはもう冷たくなっていたらしい。
その後犯人は捕まり、現在も捕らえられている。
でも、そんな程度で、そのくらいの刑で、私の気は収まるわけが無い。最愛の人が亡くなって、何もする気が起きなくて、会社も辞めて、友人も居なくなった。ここまで私の人生を狂わせたのに未だ生きていることが許せない。
あの人に何も無ければそれでいい。
あの人にまた会えればそれでいい。
最悪私は死んでもいい。
"過去に行く"なら、過去の私もいるはず。
あの人が生きていれば、あの人の隣で笑う過去の私もいるはず。私はどうなってもいいから、あの人と"あの子"が生きていればそれでいいから、過去に行くならあの人を救いたい。
そんなまだありえないことを夢想する。
気がつけば涙が出ていた。
あれは僕の目指す場所。
今はまだ、誰かに照らされて光る星。
僕が目指すのは、自分から光る星。
自分だけじゃなく、誰かを照らす星。
そんな星を今日も追いかける。
飛べ、遠くまで。
あの的を超えて、あなたまで。
………
飛び出した弾丸は目で追えない速さで飛んでいく。
そのまま的の中心に刺さる。
出た数字は10.9、最高点だ。
かなりマイナーな競技、ライフル射撃競技。
しかしここ最近、オリンピック競技や、"無課金おじさん"などでほんの少し有名になってきている。
「せっかく有名になっても続けてくれる人は少ないのよね。」
射撃体験には来てくれても、銃器・射撃用のコートの値段を聞くとやめてしまう人がほとんどで、続けてくれる人は少ない。
「僕も少しは有名なはずなんだけどな〜。」
そんなことを嘆きながら撃ち続ける。
「……そういえば、あの先輩は今のベストってどのくらいなんだろ。」
憧れの人のことを考える。いつか、あの人を超えるために今日も射撃を続ける。