私とあなた、ふたり
どこまでもあなたといっしょ
どこにいても、いつまでも、
たとえ離れようとも、
絶対にふたり。
もう…離れたくない。
離れたら…許さないからね…?
1歩外に歩み出た。
周りが暗くなった。
急に苦しくなって、潰れていった。
1歩外に歩み出た。
世界に流された。
やがて倒れて、潰された。
1歩外に歩み出た。
世界が自分に目を向けた。
目線に押し潰されて、堕ちた。
1歩外に歩み出た。
朝より足が早く動いた。
やがてまた世界に流された。
1歩外に歩み出た。
目線に押し出された。
やがて世界が私を置いていった。
1歩外に歩み出た。
世界にふわりと舞い上がった。
やがて線路に堕ちて、轢かれた。
1歩外に歩み出た。
服も、靴も、何も無い場所で、
素足のままで、
世界から逃げて、
やがて引き込まれ、
流されて、
堕ちて、
やがて気づいた。
慣れないことなんか、するんじゃなかった。
君が死んで、
明日は消えてしまって。
君がいなくなって、
夜が終わらなくて。
君が出ていって、
目の前が真っ暗になって。
心配して、
苦しくなって、
痛くて、
泣きたくなって、
吐きたくなって、
でも吐き出せなくて。
ずっと伏せたまま、
ずっと塞いだまま、
ずっと籠ったまま、
帰ってこなかった。
最後に見た君はもう無くて。
今の君はボロボロで。
伏せて、塞いで、籠ったままのこの気持ちは、
もう吐き出すところがなくて。
これが最後だからと吐き出した本音。
「ごめんなさい」
最期に君が見た景色は分からないけど、
後悔に染まった私が君の心に届くことを願った。
でも、
繋いだ手の冷たさは、私の後悔と孤独を深めるばかりだった。
やさしさなんてない
臆病なだけ
誰かを思う気持ちはもう捨ててきた
今あるのはひとつ
消えたい
「よーっす、また新しいの持ってきたよ」
持ってきた炭酸飲料の缶を開ける。
「……」
「明日は今までで1番暑い日だってよ」
彼女が持っていた炭酸飲料の缶を奪い取り、今開けたものを渡す。
「……」
「今までも暑かったのにさらに暑くなるとかやんなっちゃうよな」
彼女から奪い取ったぬるい炭酸を飲みながら話し続ける。
「……」
「まあ夏なんてそんなもんか、少しくらい涼しくなってくれてもいいんだけどな」
「……」
「仕事はどうなのかって?最近は食事を届けてくれるサービスのせいで僕のお弁当屋は商売あがったりだよ」
「……」
「そのせいでお弁当は安く売らなきゃ買ってくれる人も少なくてね」
「……」
「あの配達員にもなってみようかな〜って思ったりして」
「……」
「…やだな〜冗談じゃないか」
「……」
「さて、そろそろ行くか。また明日も来るからね」
2年前、僕は彼女を殺した。
彼女が別れを切り出したから。彼女は浮気をしていたから。そして何より、僕が彼女を愛していたから。だから殺した。
彼女は怒っているだろうか、恨んでいるだろうか。
そんなことを考えながら、うだるような暑さの中、仕事に戻るために墓地を後にする。
ふと、背中に行ってらっしゃいと声をかけられた気がした。それだけでほんの少し、許された気がした。