あの人には、もう会えない。
(昨夜未明、○○市の交差点で歩行者とトラックが衝突する事故が発生しました。この事故で、歩行者の○○市内に住む○○さんが心肺停止の状態で病院に搬送されましたがその後死亡が確認されました。警察はトラックの運転手が逃走……)
朝食を食べながらテレビのニュースを見ていて、突然息が詰まる。息が荒くなる。
そこに映っていた交差点に見覚えがある。
そこに映っている被害者の名前に聞き覚えがある。
私が大好きで、そして私を愛してくれていたあの人だった。
でもなんで、
なんであの人が、
昨日、あの人を自分の家に呼んで、
夜になってあの人が泊まらずに帰ってしまって、
そして、、
「うがっ……」
突然頭が痛くなる。持っていた箸を落とす。現実を受け入れたくない。嫌だ。目の前が真っ白になる。
気がついたら、日が暮れていた。
何してたんだっけ。
そうだ、時間。
スマホを開くと、今の時間よりもたくさんの通知に目が行く。
「にひゃっ……」
287件の通知、55件の不在着信があった。
ほとんどが私とあの人の関係を知っていた人で、残りは会社からだった。不在着信のひとつに警察からの連絡もあった。
すぐに会社からのメールに目を通し、謝罪の文を打つ。
会社と友人全てに返信し終えた時には、時間は20時を回っていた。
そして、今から警察への折り返しの電話をかけるという時になってちょうど、警察からの電話がかかってきた。あの人について聞かれるのだろうと思いながら、震える指で電話を取る。
「……もしもし」
電話の内容は、被害者の携帯を確認したところ、通話履歴に名前があったため連絡した、だそうだった。
あの人との関係を話し、昨日会っていたことなど隠さずに話した。明日、こちらに来るらしい。その際、住所を聞かれたため答えた。
今日は色々なことがあって、随分疲れちゃった。軽く後片付けをして、今日は寝よう…。
次の日、起きてすぐにチャイムが鳴ったため、警察だろうと思いつつ覗き窓を覗いた。けど、警察じゃなかった。パーカーを着た見た事のない誰かがいた。
「どちら様ですか?」
一応ドア越しで声をかけてみる。
『警察です、早朝でしたので私服で来させて頂きました。』
納得してドアノブに手をかけて、止まる。
ありえない、普通なら制服で来るはず。刑事モノでもせめてスーツは着ているためおかしいと感じた。
『あのー』
急かすようにドアをドンドンと叩く音が聞こえる。
嫌な空気がして、すぐにチェーンをかけて110番をして警察に電話をかける。
出た人は、事件か事故か聞いてくる。
ドアを挟んだ先に不審者がいることを告げると、電話は繋いだままでドアを塞ぐように指示された。
同時に、再びドアを強く叩く音が聞こえる。
『おーい、すみませーん』
その声を無視して、ドアを塞ぎ警察の人が到着するのを待つ。
恐怖に耐えながら、3時間はたったかもしれない。そのくらいに感じた。
ようやく警察の人が来てくれて、その人は捕まった。どうやらあの人を轢いたトラックの運転手だったらしい。動機は分からないけど、あの人の携帯から私の名前を見つけて電話をかけてきたらしい。
その運転手は裁判にかけられ、逃げたことや余罪により終身刑を言い渡されていた。
あの運転手が言うには、あの人は最後にこんなことを言っていたらしい。
“あの子のとこに泊まっていけばよかったかな”
最後の声を知れてよかったけど、せめて、
自分の耳で、あの人の声で、聞きたかったな。
6/26/2025, 5:45:11 PM