お題『手のひらの宇宙」
大神小真莉(おおがみこまり)は机に向かい夏休みの自由研究について悩んでいた。大神家次男の健太(けんた)と共同部屋なので、小真莉の真後ろには健太が夏休みの宿題に取り組んでいた。
小真莉「健兄(けんにい)、自由研究やった?」
健太「ずっとしとるよ」
小真莉「ずっと?!終わってへんの?」
健太は手を止め小真莉の方へ椅子を半回転させる。
健太「うん。オレの自由研究は夏休み最終日で完成やからなぁ」
小真莉「小真莉も同じのしようかな」
健太「小真莉には無理やし、危ないからやめた方がえぇわ」
小真莉「何それ!?ってか健兄の自由研究なんなん?」
健太「晩御飯の献立日記」
晩御飯の献立日記とは、健太が夏休み入ってから終わるまで毎日の晩御飯を1人で作ったり、継母(母)や大神天河(アニキ)と一緒に作る等自分がその日食した晩御飯を絵日記にしてつけているのだ。夏休みに入ったその日に思いつき、真面目にコツコツと出来る健太にはピッタリな自由研究と言えるだろう。
小真莉「小真莉、それイヤやわ」
健太「誰もしろなんて言うてないやろ。小真莉はどういう自由研究がしたいん?」
小真莉「すぐに終わるのがえぇなぁ」
健太「それやったら––––」
と席を立ち本棚に向かい、一番下の段にある図鑑を手にして、表紙を小真莉に見せる。
小真莉「宇宙図鑑?」
健太が提案した自由研究は『手のひらの宇宙』と言うタイトルをB5サイズの無地のノートに書く。その内容は太陽系の惑星を一つ一つ図鑑を見ながら手書きで写す。小学3年生から理科は始まるが宇宙に関して勉強するのはもう少し後かも知れない。しかし自由研究なら先行しても問題ないだろう。それに太陽系だけなら8個で終わる。仮に太陽を入れても9個しかない。すぐに終わらしたい小真莉にはうってつけである。
健太「うん。丸描いて、色塗って、惑星の大きさあとその惑星について思ったことを一言書いたら終わり(しまい)や。簡単やし、小真莉にも出来ると思うで」
小真莉「例えば?」
健太は図鑑を開き水星のページを捲り広げて説明する。
『太陽から1番近いところを回っている。大気や海がない。昼間の温度は最高で430℃、夜は-160℃。大きさ約4,879km 【ひとこと「1番小さい惑星やし、太陽に近いのに燃えないのは何故だろう」』
健太「……ってな感じで書いたらえぇんちゃう?」
小真莉「ふ〜ん。分かったやってみるわ」
健太「完成したら、確認したるで」
小真莉「え〜。1番初めは大神天河(お兄ちゃん)に見せるって決めたもん。健兄は最後やで」
ニヤリと少し意地悪な顔で話す。提案した健太よりも自分が1番好いている人から見せて褒めてもらいたい小真莉であった。
End
お題『風のいたずら』(再投稿)
8月初めの朝。委員長(可崘)は庭で祖父が趣味である家庭菜園の雑草抜きの手伝いをしていた。
祖父「可崘(かろん)、日射病になるといけないから、麦わら帽子を被りなさい」
委員長「おじいちゃん、まだ大丈夫よ。さっき朝日が昇ったばかりじゃない」
しかし祖父は縁側へ行き麦わら帽子を手に取り委員長の頭に被せた。
祖父「なってからじゃ、遅いんだよ」
委員長「……それもそうね。ありがとう」
祖父が委員長の頭から手を話すと、急に突風が吹いた。風のいたずらとでも言えるくらいに被った麦わら帽子が飛び家の塀を軽々と超えてしまった。
委員長「あ!?待って。私(わたくし)の麦わら帽子」
委員長は庭から家の玄関へ行き塀の外に周った。けれどそこには麦わら帽子はなかった。
委員長「どこへ行ってしまったのかしら?」
周りを見ても無い。向かえの家に頼んで庭に入れてもらい探した。それでも見つからなかった。
今度は自分の家と隣の家の屋根の方を探す。それでも見つからず委員長は俯き、壁にもたれかかった。
委員長「本当にどこに行ってしまったの」
すると自分の家の左2軒先からこちらに歩いてくる1人の男性の姿が見えた。彼の右手には委員長の探しているものがあった。思わず委員長はその男性へ駆け寄る。
委員長「あの、すみません。その麦わら帽子見せてもらってもよろしいですか?」
男性「え?はい。どうぞ」
委員長「ありがとうございます」
男性はじっと麦わら帽子を確認する委員長を見て訪ねた。
男性「あのぅ?……秋更(あきざら)さんのお宅ってどこですぅ?」
委員長「私(わたくし)の家ですが?ご用件をお聞きしますよ」
男性「えぇねん、えぇねん。大した、用事ちゃういますから……あんさんにお渡した麦わら帽子、この近くの神社で拾っただけやから……」
委員長「そんな遠くまで、飛ばされたんですか!?……どうりで見つからないわけだわ(笑)」
男性「もしかしてタグの後ろに名前書いとった麦わら帽子の落とし主さんか!?」
委員長は笑顔で答えた。
委員長「はい。先程の風のいたずらで飛ばされてしまい探していたのです。わざわざ届けて下さってありがとうございます」
委員長は深々と頭を下げて礼を言った。続けて––––
委員長「あの、お礼と言ってなんですが麦茶でもお飲みになりませんか?」
男性は顔の前で片手を左右に振り遠慮していた。すると庭にいた祖父が玄関の入口まで出て来て、委員長の名前を呼んでいた。
祖父「かろ〜〜ん!!」
委員長「は〜〜い!……すみません。家のものに呼ばれてしまいましたので、ここで失礼します。縁がありましたらその時は麦茶ご馳走になって下さいね」
委員長はまた深く頭を下げ家の方へ入っていくのだった。
End
お題『透明な涙』
大神小真莉(おおがみこまり)はポロポロと透明な涙を流しながら晩御飯の冷やし中華を食べていた。
健太(けんた)「何もなくことないやろ。明日には帰るって兄貴言ってたし」
小真莉「そうやど……でもぉ〜((泣))」
ずるずると冷やし中華を啜る。ついでに鼻水も啜っていた。涙いて少し目が腫れる、その姿を兄貴に見せてやりたいと心の底から思いながら健太は黙々と晩御飯を食べていた。すると母親が笑顔で小真莉に向かい話かけた。
母親「小真莉ちゃん。泣くか、食べるかどっちかにしなさい。健太くんと一緒に作った晩御飯が美味しく食べられへんやないの」
ピタリと小真莉は泣くのをやめ、透明な涙は枯れた。
笑顔の裏の母の顔が怖さが数分毎に増しているのを小真莉は肌で感じるのだった。
End
お題『あなたのもとへ』
大神から『ごめん。間違ったわ(笑)』と謝罪のメールが送られて来てから数時間経った日の夜。
萌香は晩御飯を食べ終えて勉強机に向かい夏休みの課題のプリントを広げて嘆いていた。
萌香「英語難しいよぉ〜。パパが仕事に行く前に教えて貰えばよかったぁ。せっかくパパが課題『手伝ってあげる』って言ってくれたのに……あたしったらまたパパが怖い話すると思い込んで断ってしまったよぉ。……素直に「教えて」って言えばよかったぁ〜」
今更嘆いても仕方ない。萌香の父親は子供の時に仲良くなった外国の友達がいる。その子とその親に英語を習ったことがあるので英語は得意らしい。だから萌香は今すぐにでもあなた(パパ)のもと(仕事場)へ行けるならいきたいと思うのだった。
End
お題『そっと』(『あたたかいね』の続きの話です)
1時間後大神が船星(ふなぼし)の食べた食器を下げに2階の部屋を訪れた。コンコンとドアを叩く。返事がない。寝ているのだろうかとそっと部屋に入る。
大神「船星〜。部屋入るでぇ」
予想通り船星は寝ていた。……が、何やらうなされているみたいで時折『うぅっ』と唸っている。
大神は船星の額に触れた。熱い。
大神「熱あるやんか!冷えピタ!買ってきたスーパーの袋の中にあったわ。ちょー待っててや。取って来るさかい」
ささっとサイドテーブルから小鍋と豆皿等の乗ったお盆を下げ、1階の台所の流し台へ置き小鍋の蓋を開けた。船星は具材は全てたいらげていた。強いていうなら出汁は少し残っていたが大神的に許容範囲で満足げだ。小鍋に水を張る。後で洗おう。今は一刻も早く冷えピタを持って行かねばならない。
冷蔵庫の扉を開けガサガサとスーパーの袋を取り出し、冷蔵庫の扉を閉めた。取り出したスーパーの袋からから冷えピタを持って2階へ駆け上がる。
船星の部屋のドアを開け、静かに船星の側に近寄る。
ハァハァと呼吸が荒くなっている。近くにタオルがなかったので、ティッシュで額の汗を拭う。そして冷えピタを1枚箱から取って透明の薄いシートを剥がし、青色のジェルのついた粒々が肌に触れるように船星の額にそっと貼る。
寝ていた船星が気づいた。
船星「冷たくて……気持ちいい」
大神「せやろ」
船星に笑顔を向ける大神。船星は起き上がろうとしたが大神がそれをさせなかった。
大神「病人は寝とくもんやで!無理に起きやんでええんや」
船星「……ごめん」
大神「気にすんなや。体調悪い時くらい他人に甘えんとそうしな……。!?あかん、話暗くなる。やめや、俺、今日船星の家泊まるわ!」
船星「そ、そんな。これ以上大神に迷惑かけられないよ。それに大神の家族の人が心配するだろうし……」
船星は大神から顔を逸らした。
大神「あのなぁ。そんなん電話一本で済む話や。居場所さえわかっとら大概の親は何も言わん。それに俺の家族のことなら心配せんでえぇ。逆に病人ほっといて帰る方が親に怒られる(どやされる)わ(笑)」
大神は苦笑いをして船星の部屋をあとにした。そして1階へ降りて台所の流し台へ向かい、食器を洗う。洗い終わるとGパンの後ろポケットから携帯を取り出して家の電話へかける。
大神「あぁ。おかん、俺。天河(てんが)。今日さ、友達の家に泊まるわ。……うん……そう。なんや体調悪いみたいやから看病して明日帰って来るわ。小真莉(こまり)には上手いこと言うといてや。ほな」
End