お題『理想郷』
萌香達が入学する数年前の話。
萌香の担任が新任教師になったばかりの頃、教員だけの朝礼が行われていた。
校長「おはようございます。さて、先週連絡した通り本日からアデレード先生の代任を紹介します。酒枡(さかます)先生〜」
酒枡「先ほどご紹介された。酒枡リオンと申しマス!担当は英語デェ〜ス。よろしくお願いマァス」
時折カタコトな日本で話す酒枡という教師は日本の大学に入るまでアメリカに住んでいたという。挨拶の後酒枡はとんでもない発言を皆の前で発表した。
酒枡「私(わたくし)、リオンはこの学校で私の求める理想郷(ユートピア)を作り上げたいと思っていマス!」
数年後酒枡の副担任になる教師が目を輝かせて質問してきた。
副担任「どういった理想郷ですか?」
酒枡「アメリカスクールのような服装、髪型、髪色全てにおいて自由な学校を作ろうと思いマス」
温厚な校長が後にも先にもこの時初めてブチギレたのは酒枡ただ1人だけだったという。
End
お題『懐かしく思うこと』
白鳥(しらとり)に地元の夏祭りに誘われた当日の夜、真珠星(すぴか)は慣れない浴衣を着ていた。薄紫の生地に紺色の紫陽花の柄がデザインされている。
神社の裏口で白鳥を待っていると手を振る男性が見えた。
真珠星は心臓の音がドキッ!と大きく聞こえた。
白鳥「遅れたかな?」
真珠星「いえ。待ち合わせ時間ピッタリです」
白鳥「そう、よかった。遅れたらどうしようかと思ったよ。可愛い浴衣姿の真珠星ちゃんを1人ぼっちで待たせるのは罪だからね」
真珠星は顔が真っ赤になり俯いた。普段可愛いなどと言われないので照れてしまう。何か言わなければと思いつつも言葉が出ないので、はにかんだ笑顔を見せた。
神社の境内の中と外に出店している屋台を一通り見て、気になった屋台をいくつか回った後、足に違和感を覚えた。ズキッ!?と足の親指の付け根が痛む。こんな些細なことでせっかくの夏祭りを台無しにしたくない。そう思い真珠星は痛みを我慢してしばらく歩いていた。
すると白鳥は何かに気づき突然−−−−。
白鳥「背中に乗って!」
真珠星「えっ!?急に何ですか!?」
真珠星は動揺していた。焦っている白鳥を見るのは初めてだった。
白鳥「早くッ!?」
真珠星「は、はい」
白鳥の背中におんぶされた真珠星は人気の少ない境内の中にあるベンチに降ろされた。その後白鳥は鞄から絆創膏を取り出し真珠星の履いている。下駄を脱がした。真珠星の顔はまた赤くなったと同時に情けない気持ちなった。白鳥は真珠星の異変に早々に気づいていたらしい。白鳥は真珠星の足の親指の付け根に絆創膏を貼りまた下駄を履かせた。これ以上祭りは無理だから帰ろう。
白鳥は真珠星を再び背中におんぶして真珠星を家まで送り届けた。
自室に戻り真珠星は心の中で嘆いた。
『自分のせいで夏祭りが……告白するチャンスが……』
と高校生になった今、懐かしく思うことを酪農体験場所から少し離れた休憩所で萌香達に笑い話であるように話していたのだった。
End
お題『もう一つの物語』
これから語るもう一つの物語は萌香の友達、穂先(ほさき) 真珠星(すぴか)が萌香と出会う前の話である。
当時中学2年生の真珠星はいつも家に遊びに来る五つ上の兄、源星(りげる)の友達白鳥(しらとり)に恋をしていた。
1学期の終業式を終え自宅に帰ると出迎えたのは家族ではなく遊びに来ている白鳥だった。
白鳥「お帰り、真珠星ちゃん。外、暑かったでしょう。さっさ、特等席に座って冷たい麦茶をどうぞ」
特等席とはリビングの中で一番エアコンのクーラーの風が当たる場所だ。真珠星は鞄を手に持ったまま白鳥に背中を押されながらダイニングチェア(特等席)に座らされた。それと同時にガラスのコップに冷蔵庫の冷凍室から取り出した氷が入る、母親が作った麦茶を白鳥はコップに注ぎ入れ真珠星の目の前に差し出した。
真珠星「……あ、ありがとうございます」
真珠星は自分の家の麦茶だと頭で理解しているものの好きな人が“自分の為“に淹れてくれた。ただそれだけなのに少し緊張してしまい、震える手でコップを持ちそして麦茶を一気に飲み干した。
白鳥「いい飲みっぷりだね。将来が楽しみだ(笑)」
真珠星「どういう意味ですか?!」
と少し嫌味っぽく言うと。兄が白鳥と真珠星の間に割り込んで来た。
源星「そりゃ、お前酒豪って意味だよ(笑)」
真珠星「嘘っだ〜。おにぃ嘘つきだから信用できない!」
兄妹のやりとりがこれ以上長引くと喧嘩に発展しそうだったので、白鳥は真珠星の機嫌を取る為、翌日行われる地元の夏祭りに誘った。
真珠星は天にも昇る思いだ。その時決意した、このチャンス逃してたまるか!!と……
End
お題『暗がりの中で』
船星(ふなぼし) 渉(わたる)。彼には長年悩み続けているコンプレックスがある。他人からすれば悩む必要がない寧ろ親に感謝すべき事なんだろう。
小学生の時僕は良く女の人から告白された。それは中学生になっても続いていた。初めは何故か嬉しかった。でも一度も付き合うことはしなかった。だって僕には告って来た人に対して、その感情がまだなかったからだ。そんな事が続いた中学1年のある暑い日、体育祭の準備で体育館倉庫にいたら、1年上の女の先輩が僕に告白してきた。勿論僕はいつものように断った。だって一度も面識ない知らない人だったから……。
そしたら今度は僕に逆恨みした1年上の男の先輩が僕を殴って体育倉庫に閉じ込めたんだ。
暗がりの中で、僕は体育座りをして嘆いた。
船星「どうして殴られなくちゃいけないだ?!僕は……悪くない……悪いのはこの顔のせいだ!!」
船星の顔は目鼻立ちが整っている。幼さが残る所謂子犬系男子だ。
船星は体育倉庫に閉じ込められて以来前髪を伸ばし顔を見せないようになると途端に告白の数は減少をした。
彼が家の人以外の女性と話すのが苦手なのはこれとはまた別の話である。
End
お題『紅茶の香り』
湖畔でBBQを満喫した後は自由時間だった。
萌香達は近くの酪農体験ができる場所(エリア)に移動した。
体験コーナーでは『牛の乳搾り』、『手作りウィンナー』、『手作りバター』が体験できる。夏季限定で『羊の毛刈り』というのもある。
しかし訪れた時期が早かった為羊の毛刈りの方は開催されていないかった。なので通年開催されている牛の乳搾りと手づくりバターを体験する事に決めた。
係の女性に説明を受けた後消毒を終え、牝のホルスタインを前に萌香は言った。
萌香「羨ましい……」
係の女性は萌香の一言に苦笑いをしている。
係の女性「優しくしすぎると出ずらいので少し力入れても大丈夫ですよ〜」
アドバイスをもらいながら萌香達は牛の乳搾り体験した。その後別室で手づくりバターを作り。萌香達の体験は終了した。
集合時間までまだ時間がある。
酪農体験場所(エリア)から少し離れた休憩所で萌香達は、暖かいコーヒーや紅茶の香りに包まれながら集合時間までゆっくり休憩を取ることにした。
End