太鼓の音がなる。
それは胸の鼓動と同じように強く激しく打つ。
独特の雰囲気、掛け声、和風な音色。
太鼓の音というのは聞いていて気持ちがいい。
胸の鼓動と太鼓の音は、同じタイミングで"なる"。
それが最高に、楽しい。
_2023.9.8.「胸の鼓動」
ぼくは目を見開いた。
目の前にいる、少年か少女か性別の区別がつかないような十歳くらいの子供。
その子供は、安そうなかぶいた着物を着ている。ぼくにはそれが、とても羨ましかった。
そいつはひらりひらりと、それは美しく羽ばたく蝶のように舞い踊る。
楽しげに、少し切なげに。
そいつは孤独であった。
そいつはぼくの孤独感を流しさってくれた。
それから何十年か経った。
ぼくはあの日しか美しい子供を見なかった。
あの日見た子供の正体を知っているのは、あいつ自身と神様だけであろう。
いや、あいつが神様だったのかもしれない。
_2023.9.7.「踊るように」
時を告げる。
なあなあ、テストどうだったー?
いや俺マジで無理なんだが
ううっふうぅうう!!マジでサイコー!!
やっぱわたしって天才だと思うんだよね
どうしよ親に怒られるわー
あいつ、どうにかなんねーのかなー
ああ、新人の猿渡?
ねえ聞いて、こないだ言ってたコスメ見つけたんだけどさ
まじで!?どんなの?
今からコンビニ行かない?
あーあ、
あの頃に戻りてーなぁ。
_2023.9.6「時を告げる」
今日は親友に会いに、海に来た。
近くをまわる青くまるい生き物にきのみをあげる。
__ちゃん、来たよ。
そう想いを込めて、ポケットから白く細い笛を取り出す。
広大な大地に繊細で優しい音が響く。聞こえるのは生き物の鳴き声、かすれる葉音、蒼く広い海の声。
世界が、わたしと自然と大地しかなかった。
今まで見ていた世界は狭かったはずなのに、笛を吹くとどこまでも響き渡っていくような気がした。
すてきな笛を聴かせてくれたおれいに、とでも言うように、いや、言って、さっきの青くまるい生き物から、
ひとつの貝殻をもらった。
ありがとう。
と、素直に喜びながら、わたしは御礼を言った。
手におさまる小さなひとつの貝殻を見つめる。
今見ている世界が変わる。どんどん広く、その未来が見えていく。
__、お待たせしてしまったわ、ごめんなさいね。
わたしは、時代が変化していく中での一人の人物でしかないけれど、
今はそれが、
わたしにとって心地よい。
_2023.9.5「貝殻」
今日のお題の頭文字二文字の…あとその親友さん…。青い生き物は球体のアザラシの…。
『きらめきだとか希望だとかもう無えよ』
男は電話口の向こうで乾いた笑いをこぼした。
『もう一生、戻れねぇかもしれねぇのに』
音声だけでも分かる、男はきっと、寂しげに下を向いて笑っているだろう。
「大丈夫ですよ。私はずっと先輩のそばにいます。電話越しでも、私はここに。」
『ははっ、ありがとよ』
この男の後輩と思われる声が聞こえる。
「先輩」
『ん?』
「もし私が、……いえ、やっぱり何でもありません」
『なんだよ気になるなぁ、言ってみ?』
「…えと、……わ、私が、もし」
_無限ループ者だったら、助けてくれますか…?
_2023.9.4「きらめき」
両者とも、「きらめき」なんて無かった。
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もう一つ見てってやってください
「戸部君見て、あれが銀木犀」
「へー。でっかい木だな」
中学生だった私たちは同じ高校に進学した。なんで戸部君はここまで私にからんでくるのか。やっぱりそこだけが疑問だがもう慣れた。
さて、私たちはなぜ銀木犀の木にいるか。それは、
「その、夏実?ってやつって、小学校までお前と一緒だったイメージ強かったけど、高校は離れたんだな」
「まぁ、うん。夏実は夏実でやりたいことあったみたいだし。結局仲直りはできなかったなぁ」
銀木犀の花が散る景色を、見に来たのだ。
「夏実は、銀木犀の花が好きでね。よくこの木の下で『動けなくなっちゃった』とか言って、中に隠れてたんだよ」
「確かに、一面に広がってるしな」
「でももう隠れるのはやめた。隠れてたから夏実に本当の気持ちを素直に言えなかったんだ、って気づいて」
「…なあ、おれ_」
「ごめんっ!!お待たせ!!」
声のした方向へ振り返ると、そこには喧嘩別れした親友がこちらに向かって走ってきていた。
「夏実っ!?な、なんで」
「おれが勝手に呼んだ。いつまで経っても仲直りしねぇからよ」
戸部君はそれだけ言って、遠く離れた地面に座って銀木犀の花を集めている。
「あの…ごめんね、私、あなたがそんなことしないって分かってたのに」
「いや、ごめん違う、私が何もしなかったから」
ニ人してあたふたしているのがか、あの頃の私たちみたく話ができたからか、2人で顔を見合わせて吹き出した。
「ねえ、夏実。聞いて?」
「なに?」
「夏実は私を意外と臆病者と思ったことが_」
ニヤリと笑った。「_あたかもしれない。」
銀木犀の花が散る。その姿は小さきながらも、
きらめいていた。