ぼくは目を見開いた。
目の前にいる、少年か少女か性別の区別がつかないような十歳くらいの子供。
その子供は、安そうなかぶいた着物を着ている。ぼくにはそれが、とても羨ましかった。
そいつはひらりひらりと、それは美しく羽ばたく蝶のように舞い踊る。
楽しげに、少し切なげに。
そいつは孤独であった。
そいつはぼくの孤独感を流しさってくれた。
それから何十年か経った。
ぼくはあの日しか美しい子供を見なかった。
あの日見た子供の正体を知っているのは、あいつ自身と神様だけであろう。
いや、あいつが神様だったのかもしれない。
_2023.9.7.「踊るように」
9/7/2023, 10:50:18 AM