汚水 藻野

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『きらめきだとか希望だとかもう無えよ』

男は電話口の向こうで乾いた笑いをこぼした。

『もう一生、戻れねぇかもしれねぇのに』

音声だけでも分かる、男はきっと、寂しげに下を向いて笑っているだろう。

「大丈夫ですよ。私はずっと先輩のそばにいます。電話越しでも、私はここに。」
『ははっ、ありがとよ』

この男の後輩と思われる声が聞こえる。

「先輩」
『ん?』
「もし私が、……いえ、やっぱり何でもありません」
『なんだよ気になるなぁ、言ってみ?』
「…えと、……わ、私が、もし」


_無限ループ者だったら、助けてくれますか…?

_2023.9.4「きらめき」

両者とも、「きらめき」なんて無かった。
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もう一つ見てってやってください


「戸部君見て、あれが銀木犀」
「へー。でっかい木だな」
中学生だった私たちは同じ高校に進学した。なんで戸部君はここまで私にからんでくるのか。やっぱりそこだけが疑問だがもう慣れた。
さて、私たちはなぜ銀木犀の木にいるか。それは、
「その、夏実?ってやつって、小学校までお前と一緒だったイメージ強かったけど、高校は離れたんだな」
「まぁ、うん。夏実は夏実でやりたいことあったみたいだし。結局仲直りはできなかったなぁ」
銀木犀の花が散る景色を、見に来たのだ。
「夏実は、銀木犀の花が好きでね。よくこの木の下で『動けなくなっちゃった』とか言って、中に隠れてたんだよ」
「確かに、一面に広がってるしな」
「でももう隠れるのはやめた。隠れてたから夏実に本当の気持ちを素直に言えなかったんだ、って気づいて」
「…なあ、おれ_」

「ごめんっ!!お待たせ!!」

声のした方向へ振り返ると、そこには喧嘩別れした親友がこちらに向かって走ってきていた。
「夏実っ!?な、なんで」
「おれが勝手に呼んだ。いつまで経っても仲直りしねぇからよ」
戸部君はそれだけ言って、遠く離れた地面に座って銀木犀の花を集めている。
「あの…ごめんね、私、あなたがそんなことしないって分かってたのに」
「いや、ごめん違う、私が何もしなかったから」
ニ人してあたふたしているのがか、あの頃の私たちみたく話ができたからか、2人で顔を見合わせて吹き出した。



「ねえ、夏実。聞いて?」
「なに?」
「夏実は私を意外と臆病者と思ったことが_」

ニヤリと笑った。「_あたかもしれない。」

銀木犀の花が散る。その姿は小さきながらも、

きらめいていた。

9/4/2023, 11:54:31 AM