汚水 藻野

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6/14/2023, 10:01:18 AM

今日の空にはいつもの青はなく、代わりに灰色で埋め尽くされていた。ただ、どんよりと曇っていた。教室に残る2人の時間がゆっくりと流れる。
「お前はさ、いつも曖昧だよな」
「どこがよ。私はいつもハッキリしてるわ」
「そうか?俺にはそう見えないけど」

彼女は物事をハッキリ言うタイプであり、強気で男勝りな性格。
そんな彼女にひとつだけある、俺しか知らない「曖昧な部分」を知っている。俺が知っているそれを彼女は知らない。

俺が知ってる時点で俺の勝ちだ。


「で、アンタいつまでもそこで寝てていいの?私、もう帰るけど」
「ちょっと待て、今日、一緒に帰ろう」
「…はいはい、早くしなさいよね」
「そういえばさ、俺のことを好きな人がいるんらしいんだけど」
「…そう、誰?」
「俺は知らない。まあただの噂なんだけど。みんな隠すんだよ、そういう大事な部分。曖昧だよな」

「曖昧、ね…」


「…それね、私のことよ」

「……知ってた」



ほらな、お前は曖昧だ。

_2023.6.14「あいまいな空」

6/13/2023, 11:08:30 AM

「みきはさ、あじさいが綺麗に咲く時期って知ってる?」
「梅雨時でしょ」

梅雨時。

私は梅雨時が嫌いだ。梅雨時は、せっかく整えた前髪も崩れるし、蒸し暑い。

「今日も雨か…」
「嫌だなあ」

そう、思っていた。

中学二年生の六月、私は私より一学年上の好きな先輩に告白することにした。

なんで今かというと、それは私にもよく分からないが、先輩を見た瞬間、「今しかない」と思った。

「呼び出してすみません、先輩」
「大丈夫だよ。それより話って何?」
深呼吸を一つして、私は口を開いた。
「私、先輩のことが好きです。もしよければ私と付き合ってください!」

そう言って伸ばした手を、先輩は掴んでくれなかった。
「ごめん」

はっきり言うと、私はフラれた。


その日の帰り道、私は声を殺して涙した。私は雨に濡れた。ここで一緒に濡れてくれるのは先輩だと思った。

でも、違う。

雨がまるで「泣いてもいいんだよ」と慰めてくれるような気がした。今日くらいは、雨でもよかったと思えた。

私と一緒に濡れてくれたのは、帰り道にある綺麗に咲いたあじさいだった。

_2023.6.13「あじさい」

6/12/2023, 10:51:25 AM

「ぼくは、ぴーまんがきらいです」

「ぼくは、さくらがすきです」

「ぼくは、にんじんがきらいです」

「ぼくは、みきちゃんのことがすきです」

「ぼくは、

僕は、ハヤトくんが嫌いです」


キミは僕のことをどう思ったかな?

……え?どうしてハヤトくんが嫌いなのかって?僕が嫌いだから嫌いなんだよ。それ以上の理由はいらないさ。
だって別にいいだろう?誰が誰を好きになっても、嫌いになっても。

「……アンタはいっつもそうやって…ッ!」

黙っててくれる?

人の価値観を他人の価値観で決めつけられたくないかな。


もうさ、



キミと僕の関係は「他人」なんだから。




_2023.6.12「好き嫌い」

6/11/2023, 12:05:28 PM


「このクソ街から出て行けるとはなんと喜ばしいことだ、ははは!」


"もうこんなクソ街、早く出て行きたかった"

小学3年生の頃、この街はつまらないなと気づき、そう思いはじめてから早9年。
この街には人も少なけりゃ交通整備も整えられておらず、あることと言えば夜に鳴くカエルの鳴き声、くらいか。
とまあ、そんなクソ街で育った俺は大学へ通うことになり東京へ上京することが決まっていた。両親に伝えた時は、最初は驚いていたが、「あなたの信じる道ならそれでいいんじゃない?」と言ってくれた。

これで心置きなく東京ライフが送れるぜ!

途端、何故だかすごくさみしい気持ちが溢れ出した。なぜだ?こんなクソ街、いいところなんて1つも__



____いや、あった。ある。

うっとうしいカエルの鳴き声も、好きな子に思いを告げたあの木も、母さんの作った美味しいご飯を、家族揃って食べたのも、

全部全部。


そして、街から離れる当日。両親は空港まで着いていくと言ってくれた。
そんな俺は、母さんと親父に言ったんだ。

「…母さん、親父。俺、忙しいからって実家に帰らないつもりなんか、ないからな。安心して家で待っててくれ。それまでは、"またな"」

あなたの街にはどんないいところがありますか?
_2023.6.12「街」

6/11/2023, 7:18:35 AM


「……ぇえ〜…やりたいこと?私のやりたいことってなんかある?」
私は部屋で本を読みながら優雅にコーヒーを飲んでいる恵爾に問いかけた。恵爾は私の方へ顔を上げた。
「どうした急に。てか知らねぇよ」
「いやさ、今日のお題『やりたいこと』なんやて」
「お前のやりたいことなんて九条さん殴るとかしかなくないか」
「私のことなんやと思っとるん」
「アホ」
「それは当たり前やん」
そう言うと恵爾は飽きたとでも言うように溜息をつきながら読みかけの本を読み始めた。
「……あ、一つ思いついた」
「…?」
読みかけだと言うのに(またなんか喋り始めたこいつ…)というような顔をして私の方を見る。

「勝に日頃の恨みと行いを込めて殴りたいな」

恵爾、また本に視線を戻す。
「え〜、もうちょい興味持ってくれても良くない?」
「人が殴られるのに興味持つ人間になりたくねぇな」
「えー仕方ないなー、ほんなら今日は恵爾とキン〇マ殴りしよう」
「それは俺がやられるのかがやられるのかどっちなんだ」

「いやこっち見てニマニマすんな怖えな」



拝啓、キ〇タマ殴られた九条勝

今日も平和です。_2023.6.11「やりたいこと」

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