「みきはさ、あじさいが綺麗に咲く時期って知ってる?」
「梅雨時でしょ」
梅雨時。
私は梅雨時が嫌いだ。梅雨時は、せっかく整えた前髪も崩れるし、蒸し暑い。
「今日も雨か…」
「嫌だなあ」
そう、思っていた。
中学二年生の六月、私は私より一学年上の好きな先輩に告白することにした。
なんで今かというと、それは私にもよく分からないが、先輩を見た瞬間、「今しかない」と思った。
「呼び出してすみません、先輩」
「大丈夫だよ。それより話って何?」
深呼吸を一つして、私は口を開いた。
「私、先輩のことが好きです。もしよければ私と付き合ってください!」
そう言って伸ばした手を、先輩は掴んでくれなかった。
「ごめん」
はっきり言うと、私はフラれた。
その日の帰り道、私は声を殺して涙した。私は雨に濡れた。ここで一緒に濡れてくれるのは先輩だと思った。
でも、違う。
雨がまるで「泣いてもいいんだよ」と慰めてくれるような気がした。今日くらいは、雨でもよかったと思えた。
私と一緒に濡れてくれたのは、帰り道にある綺麗に咲いたあじさいだった。
_2023.6.13「あじさい」
6/13/2023, 11:08:30 AM