《形なきものを形に》
(刀剣乱舞/蜻蛉切)
想いというのは形がないもので、どうにか伝えたいから言葉を綴り、行動に移すのだという。
「人はそれを"愛"だと呼ぶのでしょうな」
話の発端は、先日修行より帰還した千子村正の事だった。
妖刀伝説に惑わされる話を、本人も手紙に綴っていた事から、「なぜそんな噂が生まれるのか」から話が変わり、
言葉や想いという形の無いものの話になったのだ。
蜻蛉切にも梵字が彫られており、それもまた形の無い"願い"や"想い"といった心を、形にしたものだと。
「自分を形作るのは人の想いであり、元の主の生き様もありましょう。そのようなものも、形の無いものであると思います」
勇ましい体と強き精神を持つ蜻蛉切という刀剣男士もまた、かつての主・本多忠勝の生き様が反映されているのだと。
《子供の心は何処へ》
(刀剣乱舞/千子村正)
その本丸の審神者は十にも満たない子供だった。
けれども随分と大人びており、精神年齢だけで言えば大人にも思える人間だった。
だからこそ、遊びをする姿は見ることがなかった。
ある日、千子村正は審神者が現世へ赴く用事が出来た際に伴をした。
道中の公園から聞こえた子供の笑い声にふと目をやると、
ブランコやジャングルジムなどの遊具で遊ぶ子供たちの姿が見えた。
「主はあのように遊びたいと思うことは無いのデスか?」
村正の問いに審神者は一瞬子供たちの方へ目線を送るが、直ぐに戻し、
「子供で居られなくなったからね」と答えた。
「審神者になった事を悔いているのデスか?」
「そんなことは無いよ。でも、同じような年齢の子達と遊びたいと思うのは嘘じゃないよ」
「ジャングルジムに登って、そこから見える景色の綺麗さは1度だけ知ってる。秘密基地みたいで楽しかった思い出も」
「主といえどまだ子供なのデス。遊ぶ事も仕事と言うでショウ?」
村正の言葉に審神者は微笑むだけで、応じることは無かった。
《呼ぶ声》
(刀剣乱舞/愛染国俊)
真っ暗闇の中。
誰かの声が聞こえる。
「愛染国俊様。どうか起きて下さい」
「我らの為にお力添えいただきたい」
その声に喚ばれ、目覚めた日を覚えている。
自分が何者で、何のために励起されたのか。
自身を振るう理由も、守るものも。倒すものも。
誰かを守るためならば、敵を倒し、守って見せよう。
「愛染明王の加護がついてんだ。任せとけって」
これは、刀剣男士・愛染国俊の《本霊》が目覚めた時の話である。
《秋に恋する》
(刀剣乱舞/蛍丸)
「蛍は秋のどこが好きー?」
「えー?国俊は?」
「食い物が美味い!焼き芋だろー?栗も美味しいよなー」
「俺も食べ物美味しいものばっかで好きだなぁ」
「秋に恋してるとこはそこかなぁー」
季節それぞれの良さはあるが、
蛍丸にとっての秋に恋する理由は
美味しい食べ物が多くあることなのだという。
《守ること、守られること》
(刀剣乱舞/明石国行)
明石国行という刀は、普段はやる気が全くないのにも関わらず、蛍丸と愛染の同派に対してだけは少しだけやる気をだす刀である。
特に蛍丸については【大事にする】という意識があるように見受けられた。
それは愛染から蛍丸への態度も時折同じように見えた。
2振りにとって蛍丸は【大事に守るべき存在】なのだろう。
けれども蛍丸は決して弱くなどない。ああ見えても大太刀なのだから、腕っ節は2振りよりある。
では何故か?
あくまでこれはある審神者にとっての憶測だが、
現世においての蛍丸という大太刀は【所在不明】なのだ。
かつての大戦後に接収され、行方知らずの大太刀。
『もう二度と会えないと思っていた同派の仲間に会えた』となれば、大事にするのも道理なのではないか、と。
明石に関しては、大事に守られ続け、国宝に成るほどの美しい姿を保っている存在。
大事にされてきたからこそ、その心を誰よりも知る刀。
あの飄々とした姿の奥底には、人知れず抱いている想いがあるのではないだろうか。