瑠璃

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8/19/2024, 12:12:52 PM

《水の中で息をする様に》
(刀剣乱舞/三日月宗近)

その日、内番で小狐丸と畑当番だった三日月は、夕立に遭い、咄嗟に納屋に逃げ込んだ。
「参りましたねぇ....」
「困ったものだなぁ、ははは」
雨は激しく降り、当分止みそうに無い。
三日月は小狐丸と顔を見合せ、苦笑いをする。
「こうも降り続けると、まるで水の中に居るようではないか?」
「三日月殿は面白いことをおっしゃいますな」
「水の匂いに満たされる気持ちだ」
「音も相まって雨と一体化しているよう、と言ったところですかな?」
三日月は、そうだな。と笑い返す。

確かに傍から見れば雨という空模様は気が滅入るものではある。
が、雨だからこその空気や言葉がこの世にはある。
三日月は雨も、晴れも、雪も。四季折々の花々と、空模様が愛おしく、その季節、景色を指す言葉もこの国には多くある。
梅雨に限って言えば、五月雨、卯の花腐し、男梅雨、女梅雨。
琉球の刀達は「すーまんぼーすー」とも呼んでいた。



「とはいえ、いつまでもこのままというのは困ったな」
「ならば、いっそ本丸まで走りますか?」
「どちらが先に着くか競ってみるか?」
「負けませぬよ?」

2振りは短刀のように笑い、雨の中を走り出した。

8/18/2024, 10:29:20 AM

《映る姿、写された姿》
(刀剣乱舞/山姥切国広)

「俺に、手鏡....?」
審神者に呼ばれ、何かと思えば手鏡を贈られた。
審神者曰く、"万屋で見た時に山姥切国広を彷彿とさせた意匠だったから"との事。
その鏡は銀製の手鏡で、山々と流れる川に舞い落ちる桜の花びらが彫られているものであった。

「写しの俺を"映す"鏡、か....」
そう呟くと、審神者は《またそんな事を》と苦笑をする。
いらない訳では無いが、使うかと問われると微妙なもので。
山姥切国広はしぶしぶ賜り、自室に戻った。

改めて見れば、確かに美しい彫刻が施されている。
やはり俺なんかには勿体ない代物に見える。
「写しの俺なんかに、何故贈るんだか.....」

霊剣・山姥切を模した刀、山姥切国広。
《写し》の自分を《映す》鏡なんざ必要ないと思っている。
けれど、いつか。もし、そんな考えを捨てることが出来る日が訪れるなら。

その時こそ、山姥切国広はこの鏡を気兼ねなく使えるのだろう。

8/17/2024, 10:24:42 AM

《紡いで来た語り種、紡がれてゆく語り種》
【刀剣乱舞/大千鳥十文字槍】

自室の引き出しに仕舞われた、螺鈿の施された赤い箱。
そこには大千鳥の《語り種》がある。

初誉で審神者より賜った己の紋が施された盃。
泛塵と共に織った上田紐。
信繁の事が綴られた軍記。
無茶な進軍をした挙句、折れた時に発動した御守の残骸

その他にも様々な物が入っており、大千鳥はその一つ一つを愛おしそうに手に取り、懐かしむ。
「沢山の語り種が出来たものだな.....」
そして、今日。新たにここに仕舞われる物がある。

「本丸発足十周年、か....」

十年の歩みを記念し、本丸全員で写真を撮ったのだ。
そして大千鳥の手にはその写真がある。

「これからも多くの語り種を紡ぐと思うと、この箱では足りん気がするな」

捨てられぬ思い出の品々に加わる新たな思い出。
いつかこの本丸が閉じられるその日まで、大千鳥は皆と共に語り種を紡ぎ続けるのだ。