「一筋の光」
家に帰ると殴られる。
体中アザだらけ。冬場は隠しやすいから楽だ。
衣食住の住だけは与えてもらっている。
衣食は与えてもらえないからバイト代でどうにかする。
学校では、下駄箱やロッカーにゴミや画鋲が入っていたり、机には目を背けたくなるような言葉が太く濃ゆい字で書かれている。なんとも典型的な嫌がらせだ。
片親というだけで、コミュニケーション能力が乏しいだけでここまでされるものなのか。
毎日、毎日、消えたくなる、〇にたくなる。
でも、私には小説という居場所がある。
私だけの世界。
小説の世界にいると思うと暴力やいじめもどうでもよくなる。卒業すればいじめは無くなる。
貯金したお金で一人暮らしをすれば殴られることもない。
それまでの辛抱だ。
小説だけが私の希望だ。
どこまでも続く青い空
洗濯を回す、洗濯物を干す、朝食をつくる、食器を洗う、タオルを畳む、昼食をつくる、食器を洗う、買い物に行く、衣服を取り込む、夕食をつくる、食器を洗う、洗濯を回す、洗濯物を干す
毎日同じ繰り返し。
結婚生活というのは、もっと華やかなものだと思っていた。彰(あきら)と一緒に順風満帆な人生を送るのだと確信していた。その確信はどこからきていたのだろう?と今となればそう思う。
彰との出会いは、職場だ。
総合病院に勤めており、私は看護師、彰は理学療法士という立場だった。
私は元からここに住んでいるが、
彰は上京してきた人間らしい。
お互い、犬が好き、映画をよく見る、野球観戦が好き
そんな理由で意気投合し、お付き合いを始め、結婚にいたった。そんな理由で、、、今の人生。
恋に落ちていた私は、そんな趣味や好みの共通点を奇跡とでも思っていたのだろう。
彰のことが優しくも見えた。イケメンにも見えた。
私の目は一時的に腐っていたのだろうか。
お互いコツコツ貯金をして、彰の地元に一軒家を建てた。
彰の地元は、山に囲まれ、田畑が広がっており、大通りに大型商業施設がポツンとあるだけの田舎だった。
建物に囲まれ、人混みの中を生きてきた私には、新鮮な町並みに感じ、同時にこの地でうまくやれるのだろうかという不安に襲われていた。
しかし、私は「彰が一緒だから大丈夫」と浮かれていた。
当時の自分に、「世の中そんなに甘くない」と教えてやりたい。
大丈夫なものか。自治会に半強制的に入会させられ、
一か月に2回、防災訓練の練習があり、バケツリレーをさせられる。意味はあるのだろうか?
田舎には個人情報という言葉が存在しない。
忙しい時間帯に近所の人たちがわざわざ家まで来て、どうでもいい、他人の話を聞かされる。
「〇〇さん、子供が産まれたらしいわ、めでたいな〜」
「〇〇さんのところの子どもは、上京して、路上で弾き語り?っていうのをやっとるらしいわ、なんの仕事かね?」
他人の話だけならまだ我慢できる。
「奥さん!この間、奥本さん家の近くで見たよ。都会の方から来たんかなんか知らんけどな、スカートが短すぎだったと思うんよね、気いつけてね」
「子ども楽しみやね〜」
キモい。なんでプライベートを知っている?子ども欲しいなんていつ言った?ひとりの時間はないの?
彰は地元の病院に勤めている。
彰から、「お前は働かなくていいよ。家事に専念してくれ」と言われ、専業主婦をしている
あのときは、優しさだと思ったし、家事を精一杯頑張りたいと思った。
家から、15分程離れたところに、お義母さんたちの家がある。
「女はね、仕事より家事!勉学なんてどうでもええから家事できる力だけ磨いとったらええんよ!」と言われた。
彰とお義母さんの言葉は違うが、同じ意味だったのだろうか。
それから、私の生活は地獄だ。
同じ家事を毎日するだけの生活。
それに加え、近所の人との面倒くさいお付き合い。
どうでもいい情報ばかり聞かされる。
自治会の忘年会や行事への参加。
女の仕事はジジイへの接待らしい。
お洒落な店はろくにない。驚くほどに狭い世間。
地元に帰ってからどこか冷たく、淡白になった彰。
うるさくて嫌味ばかり言うお義母さん。
今の彰と顔も性格もまるっきり一緒なお義父さん。
なんなの?なんで私がこんなところに来なくちゃ行けなかったの?そう思うたびに涙が出てきそうだ
青空は山の大きさや高さに負けず、どこまでも広がっている。
純粋な空の青色が、
「山の向こう側にも世界は続いているよ」
と励ましてくれているようだった。
心が孤独な私に、唯一寄り添ってくれる。
人間の世界は、なぜ山に囲まれただけでこんなにも変わるのだろうか。
今日も、眉間をしかめ、唇を噛みながら洗濯物を干す。
END
「衣替え」
最近、肌寒くなってきた。
夏用のワンピースやTシャツは、よく使うクローゼットから
あまり使わないクローゼットに移す。
カーディガンやコートと交換だ。
移し替えているときに、あまり使わないクローゼットから懐かしい気持ちになる香りがした。
私の使っている柔軟剤ではない。
私の使っている香水でもない。
香りの方向に目を向けると
私には大きすぎるコートがあった。
そうか。彼のコートか。
彼に関わるものは全て捨てたつもりだった。
捨てるのを忘れたのか。それとも私が故意にしたのか。
それすら思い出せない。
去年のことなのに思い出せない。
去年の出来事なのに、私の柔軟剤とは違う香りがする
彼のやさしい香りのコートはまだ香りを失っていない。
忘れたいのに 忘れられない
もっと一緒に居たかった。
特別な出来事が日々の生活でおきなくても
一緒に笑いあったり、ゲームをしたり、音楽を聴くだけで
幸せだった。
「よぼよぼのおばあちゃんになっても俺はいつまでもお前のことが好き」
そう言ってくれたとき、「よぼよぼって何よ!」
と言ってしまったが、ただの照れ隠しだ。
嬉しかったし、私も同じ気持ちだった。
「よぼよぼのおじいちゃんになってもあなたのことが好き」
ずるいな。
私はよぼよぼのおばあちゃんになってから
あなたのところに行くと思う。
あなただけは若いまま
ずるいな笑
クローゼットからコートを出して外出する。
外は寒い。出たばかりなのにもう手と耳がかじかんでいるような気がする。
「束の間の休息」
部活が終わって、家に帰って、ご飯食べて、お風呂に入って
明日の学校の準備をして、やっと私の休息時間。
明日も学校で、「いつもの自分」でいられるように、
魂が抜けたように深呼吸をして息を整え、
両手を擦り合わせ、手の震えを必死に止める。
最後は、私の人生を表してくれたような、悩みのなさそうなみんな(クラスの生徒)にとってはマイナーだと思う曲を、ベッドで横になって聴く。
涙がたれてくる。頬にあたる涙が温かい。
あぁ、もうこんな時間。
嫌だな、怖いな、行きたくないな、誰にも会いたくない、
静寂に包まれた部屋
今日も一日を乗り越えた。
みんなにとっては、「ただの一日」なのかな?
私にとっては、地獄の一日だった。
家に帰ると、体から全ての力が抜ける。
笑う力、気遣う力、会話をする力、体を動かす力。
すべてが脱力する。でも、、
今日も笑えてたかな?友達に嫌われてないかな?
変なこと言ってないかな?私の顔キモくなかったかな?
あの子、いつもと表情が違くなかった?
悩む力は朝も昼も夜も私の体に、存在する。
悩めば悩むほど、頭が痛い、お腹が痛い、心が痛い。
私の体なのに、私の体じゃないみたい。
私は、私の慰め方も知らない。
ただ、静かな部屋で、親にバレないように
涙を流し、鼻をすする音を最小限に小さくすることしか
できない。
あぁ、、、明日もこの繰り返しか。