どこまでも続く青い空
洗濯を回す、洗濯物を干す、朝食をつくる、食器を洗う、タオルを畳む、昼食をつくる、食器を洗う、買い物に行く、衣服を取り込む、夕食をつくる、食器を洗う、洗濯を回す、洗濯物を干す
毎日同じ繰り返し。
結婚生活というのは、もっと華やかなものだと思っていた。彰(あきら)と一緒に順風満帆な人生を送るのだと確信していた。その確信はどこからきていたのだろう?と今となればそう思う。
彰との出会いは、職場だ。
総合病院に勤めており、私は看護師、彰は理学療法士という立場だった。
私は元からここに住んでいるが、
彰は上京してきた人間らしい。
お互い、犬が好き、映画をよく見る、野球観戦が好き
そんな理由で意気投合し、お付き合いを始め、結婚にいたった。そんな理由で、、、今の人生。
恋に落ちていた私は、そんな趣味や好みの共通点を奇跡とでも思っていたのだろう。
彰のことが優しくも見えた。イケメンにも見えた。
私の目は一時的に腐っていたのだろうか。
お互いコツコツ貯金をして、彰の地元に一軒家を建てた。
彰の地元は、山に囲まれ、田畑が広がっており、大通りに大型商業施設がポツンとあるだけの田舎だった。
建物に囲まれ、人混みの中を生きてきた私には、新鮮な町並みに感じ、同時にこの地でうまくやれるのだろうかという不安に襲われていた。
しかし、私は「彰が一緒だから大丈夫」と浮かれていた。
当時の自分に、「世の中そんなに甘くない」と教えてやりたい。
大丈夫なものか。自治会に半強制的に入会させられ、
一か月に2回、防災訓練の練習があり、バケツリレーをさせられる。意味はあるのだろうか?
田舎には個人情報という言葉が存在しない。
忙しい時間帯に近所の人たちがわざわざ家まで来て、どうでもいい、他人の話を聞かされる。
「〇〇さん、子供が産まれたらしいわ、めでたいな〜」
「〇〇さんのところの子どもは、上京して、路上で弾き語り?っていうのをやっとるらしいわ、なんの仕事かね?」
他人の話だけならまだ我慢できる。
「奥さん!この間、奥本さん家の近くで見たよ。都会の方から来たんかなんか知らんけどな、スカートが短すぎだったと思うんよね、気いつけてね」
「子ども楽しみやね〜」
キモい。なんでプライベートを知っている?子ども欲しいなんていつ言った?ひとりの時間はないの?
彰は地元の病院に勤めている。
彰から、「お前は働かなくていいよ。家事に専念してくれ」と言われ、専業主婦をしている
あのときは、優しさだと思ったし、家事を精一杯頑張りたいと思った。
家から、15分程離れたところに、お義母さんたちの家がある。
「女はね、仕事より家事!勉学なんてどうでもええから家事できる力だけ磨いとったらええんよ!」と言われた。
彰とお義母さんの言葉は違うが、同じ意味だったのだろうか。
それから、私の生活は地獄だ。
同じ家事を毎日するだけの生活。
それに加え、近所の人との面倒くさいお付き合い。
どうでもいい情報ばかり聞かされる。
自治会の忘年会や行事への参加。
女の仕事はジジイへの接待らしい。
お洒落な店はろくにない。驚くほどに狭い世間。
地元に帰ってからどこか冷たく、淡白になった彰。
うるさくて嫌味ばかり言うお義母さん。
今の彰と顔も性格もまるっきり一緒なお義父さん。
なんなの?なんで私がこんなところに来なくちゃ行けなかったの?そう思うたびに涙が出てきそうだ
青空は山の大きさや高さに負けず、どこまでも広がっている。
純粋な空の青色が、
「山の向こう側にも世界は続いているよ」
と励ましてくれているようだった。
心が孤独な私に、唯一寄り添ってくれる。
人間の世界は、なぜ山に囲まれただけでこんなにも変わるのだろうか。
今日も、眉間をしかめ、唇を噛みながら洗濯物を干す。
END
10/23/2024, 11:47:29 AM