万点

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「衣替え」

最近、肌寒くなってきた。
夏用のワンピースやTシャツは、よく使うクローゼットから
あまり使わないクローゼットに移す。
カーディガンやコートと交換だ。

移し替えているときに、あまり使わないクローゼットから懐かしい気持ちになる香りがした。
私の使っている柔軟剤ではない。
私の使っている香水でもない。
香りの方向に目を向けると
私には大きすぎるコートがあった。

そうか。彼のコートか。
彼に関わるものは全て捨てたつもりだった。
捨てるのを忘れたのか。それとも私が故意にしたのか。
それすら思い出せない。
去年のことなのに思い出せない。
去年の出来事なのに、私の柔軟剤とは違う香りがする
彼のやさしい香りのコートはまだ香りを失っていない。

忘れたいのに 忘れられない

もっと一緒に居たかった。
特別な出来事が日々の生活でおきなくても
一緒に笑いあったり、ゲームをしたり、音楽を聴くだけで
幸せだった。
「よぼよぼのおばあちゃんになっても俺はいつまでもお前のことが好き」
そう言ってくれたとき、「よぼよぼって何よ!」
と言ってしまったが、ただの照れ隠しだ。
嬉しかったし、私も同じ気持ちだった。
「よぼよぼのおじいちゃんになってもあなたのことが好き」

ずるいな。
私はよぼよぼのおばあちゃんになってから
あなたのところに行くと思う。
あなただけは若いまま
ずるいな笑

クローゼットからコートを出して外出する。
外は寒い。出たばかりなのにもう手と耳がかじかんでいるような気がする。








10/22/2024, 1:21:41 PM