沫雪

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2/14/2024, 2:39:08 PM

♯バレンタイン

「ね、今日なにかあるの?」
帰り道ふいに聞かれて答える。
「何ってバレンタインでしょ」

「え」

愕然とした顔をしている。

「どした?」

「忘れてた…」

「そっかー。でもコンビニでもスーパーでも特設コーナー出来てるし、CMでもやってたろ?」

俺が聞くと神妙な顔をして答える。

「うん。美味しそうだなー。自分の買うとしたらどれにしようかなー?って思ってた。どうりで学校のみんなそわそわしてる訳だよね」

「気にしてなければそんなもんじゃない?」

「気にしてたのに、気づかなかったの」
俺がそう言うと拗ねたように絞り出した。

「ねえ?誰かからもらったりした?」

「は?もらってるはず無いじゃん、彼女いないし」

「じゃーさ、今からでも間に合う?ちょっとダッシュで行ってくる!」

今にも走り出して行きそうな同級生を思わず引き止めた。

「は?どーゆー意味!?」

「チョコあげたいの」

「はあ!?」

思わず固まる。


「だから、すきだって言ってるの!!」


一瞬が永遠に思えた。


「もう!!馬鹿!!」

走り去る彼女の耳まで赤かった。

2/13/2024, 10:41:40 AM

♯待ってて

「そう言われた方の気持ち考えたことある??」

何度目かも分からない酔っ払いの絡み方である。

「落ち着くまでとか安定するまでとか一体いつよ?何年かかんの??」

「そんな間に子ども生まれたどころかもう高校生ですけどー!!」
「ずっとシングルで頑張ってきましたけど!!認知も養育費も貰わずに!!」

「はいはい、育ててくれてありがとね。そろそろお酒やめとこかー?」
なだめながら隣の六畳間にひいてある布団まで引きずっていく。

「いい男に育って良かった...ろくでなしだけにはならないでね?」

そんなろくでなしに引っかかったのは誰だよ、とは思っても言わなかった。

だって吹っ切れたとかもう知らないと言いつつ、こんな何年も経っても管まくくらいに憎いとは言え忘れられない、認めたくは無いが好きだった男なのだろう?
我が父は。

「こんだけ待たせてるんだから大富豪とか石油王にでもなっててもらわないと割合わないわよねー」

石油王らしき父をまだ待ってたのか。

あきらめ悪いな。

「きっと俺が石油王になる方が早いんじゃね?」

「ふはは、わらうー!」

冗談に乗ってやったのに失礼な!

2/11/2024, 12:11:50 PM

#この場所で

突然の辞令だった。
でも良いタイミングだとも思った。

この場所で一からやり直そうって腹を括った。


はずだった。


出張と称して彼女は自分の前に現れたのだ。

「久しぶりだね。元気にしてる?」

***

同期入社の彼女。
面接の頃から意気投合し、励まし合い、よく飲みにも行った。
頑張り屋で前向きな彼女に惚れるのに時間はかからなかった。
お互いが居たから頑張れたと言い合った日もあった。
趣味の映画鑑賞でも話しが合い、あの映画気になるよね!となれば2人で休みの日に観に行ったりした。
帰りにカフェで感想話し合うのも楽しかった。

彼女の誕生日、欲しかったと話していたプレゼントも用意した。

意を決して告白したのだ。

でも返事は

「ごめんなさい」

「実は大学の頃から同棲している恋人がいるの」

嘘だろ??
こんな事ってあるのか??
半年以上時間あって、たくさん色んな話したけどそんな話出てこなかったじゃないか。
他の同期や女性社員からもそれとなく話も聞いてもらったのに。
意図せず無理やり誘って迷惑掛けてたら嫌だったし。

人間不信とはこの事だ。

だから、転勤も渡りに船だったのだ。

***

「不慣れながらも何とかやっているよ。そっちは?」

何とか平静を装って返す。

「私、あなたに頼りきっていたみたい。でも、心配掛けないように頑張るわね!」

変わらないな、と思いつつ苦笑する。

実は、他の人からも話を聞いている。
周りに俺との話しが回っていて少し居心地悪いらしい。
飲みに行くのも遊びに行くのも特に周りに隠していなかったし、俺の好意はバレバレだったみたいだからな...

「まあ、お互い頑張ろうな」

あっさり流すくらいには、気持ちは吹っ切れたはずだ。

この場所から、前に進むんだ。

2/11/2024, 1:38:14 AM

#誰もがみんな

思い通りの人生を歩んではいない

努力していない訳ではない

そうわかっていても相手と比べては卑屈になる

隣の芝生は青いと言うのはその通り

2/9/2024, 12:39:40 PM

#花束

「好きな花ってなに?」
「花かぁ、柄じゃないんだよなぁ」

尋ねると困ったように笑った。

「わかる。花より団子だよね?いや、花よりプリンか」
「なにー?生意気なんだから!じゃあ、夕飯はあなたの嫌いなものフルコースにしまーす!」
「待って!ごめんて!」

軽口が随分裏目に出てしまった。


あれから何年経ったのだろう。
ずっと好きな花も知れないままになってしまった。

「誕生日くらい、好きな花あげたかったな。紫好きだったから、スイトピーにしてみたけどどうかな?かあさん」

花屋の前でしばらくあたふたしてたのは秘密だ。
バレているだろうけど。
あの人なら絶対ニヤニヤしながら見ていそうだ。

「好きだったケーキ屋のプリンももちろん買ってきたぞ!お供えするから一緒に食べような」

花束っていけるのも中々難しいな。
どうすれば綺麗に見えるかな?
あれ?仏壇から綺麗に見えた方がいいのか?
どっち向きだ??

焦れば焦るほどゲラゲラ笑うかあさんが想像できた。
「慣れないことするから!」じゃないよ!まったく。
こっちの気も知らないで、あっさり逝くんだから。
事故だから気を揉む時間すら無かった。

ムカつく。

「息子の初めて買った花束貰うなんてかあさんも幸せだな」
「え?そう言う初めては彼女にしてやれって?いねーよ!残念!お前の息子モテないんだよ!うるせー!」

なんかひとりで盛り上がりすぎかもしれん。
ヤバい人みたいだ。

「また何か供えてやるから、夢の中で良いから欲しいもの教えてくれよな」

「もっといっぱい話したかったな」

きっとすぐケンカになるだろうけど。

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