「光、それは波であり粒である
そして物質として掴むことは不可能
よって柔らかい光など存在しない」
そういう先生の手には
私達のために作ってくれたプリントの束があった
校舎の窓からの朝日を浴びてそれはよく目立った
少年の父親は上官の汚職現場にたまたま居合わせ殺された。
父親が死んでから少年の顔は憎しみで世にも恐ろしい顔に変貌してしまった。。
ある日汚職に溺れた上官は狂犬のような目をした少年を見つけ、その目の奥底に宿る熱い炎に魅了された。
上官は気に入ったその少年を高官の養成学校に入れてやった。
少年は上官を父親のように慕い、政府の犬になったふりをしトップの成績を収めた。
少年は青年となり若いながらも政府の官僚となった。
ある日、青年は官僚が賄賂を渡す瞬間を目撃した。それを見た青年の目はみるみるうちに政府の犬から狂犬に変わった。次の日、賄賂を渡した官僚は何者かに密告をされ粛清されてしまった。また次の日違う官僚が、その次の日違う官僚が次々に粛清されていった。
恐れられた青年は他の官僚から目をつけられ、地元の任地に飛ばされてしまった。そこで彼は父を殺した上官に再会した。上官はすでに高齢になり深いシワに暖かい表情を浮かべながら青年を迎えた。しかし青年は非情だった、数々の官僚を吊るし上げ多くの血を浴びた狂犬の目はさらに深く熱く冷酷に変貌し、義理の息子のように扱ってくれた上官を政府に密告し牢屋に入れた。青年はその密告を政府に評価され再び首都の任地に勤務することになった。上官は泣きながら青年に許しをを請うたが彼は見下すように一瞥したあと去っていった。上官は冷たい牢屋でなぜこうなってしまったかを自問自答しながら死んでいった。
青年は壮年になった。
彼は権力者によく似合う威厳のある椅子に深く腰掛けながら来訪者を待った。彼の顔は昔のような覇気を失い垂れた皮をこさえ疲れた顔をしていた。しばらくすると胡麻をするような表情の来訪者が訪れ、深々とお辞儀をした。お辞儀をしている間の来訪者は企みを思い出し歯茎を見せていたが、バレぬようにそっと素の表情に戻し前を向いた。しかし、そこで見たものに来訪者は恐怖し膝と腰を抜かし倒れてしまった。そこには先程の老齢とは思えぬ、人の皮を被った地獄の狂犬が射殺すような眼光で来訪者を見下ろしていた。
彼の治める帝国は長く繁栄したとさ、
終わり
「敗退ー走り高跳びレジェンド高橋なんと予選大会敗退です」
「優勝はなんと初出場ながら世界記録2メートル36に並ぶ記録を叩き出した若きホープ吉田純一です。」
大会後、パットしない壁色の控室で横に長いくすんだ青いベンチに座り呆然としていると、カメラと記者の音と光を引き連れながら吉田が入ってきた。吉田は部屋に入るなり俺に気づいたようでニヤついた顔を抑えながら話しかけてきた
「これはこれはレジェンドじゃないですか。あー元レジェンドか。今日はお疲れ様でした。」
俺は、何を言っても勝てないことを悟りできるだけ冷静に
「優勝をめでとう、次の時代を頼むよ」
そう言って控室を出て暗い廊下に出た。
控室を出る瞬間記者に呼び止められ
「引退されるのでしょうか、インタビューお願いします。」
そう聞かれた。一番聞きたくない二文字を耳にし俺は、歯を食いしばりながら、下を向き黙って家に帰った。
「お疲れ様」
帰って早々妻にそう言われ、まるで引退してきたかのように聞こえ
「俺はまだ引退していない!」
俺はついそう言ってしまった。その声は奇麗に整えられ家事を毎日頑張っていることが目に見えて分かる部屋にこだました。俺はすぐ冷静になって謝ったが妻は
「ごめんなさい、私の方こそ言葉に気をつけるべきだったわ」
そう言った。俺には本当にもったいない人だ。とりあえず一緒に夕飯を食べようと言い向かい合うように席に座った。そのとき妻のシワに俺は目がいった。(苦労をかけてしまってすまない)俺はそう心の中で謝った。そしてひと言
「やっぱり俺もう引退しようかと思ってるんだ。お前ともこれからもっと一緒にいたいし」
そう言った。実際俺は今年で40になりアスリートのピークは過ぎていた。だが、俺は妻の表情が怖くて下を向いてしまった。妻はそっとこう言った。
「私のことを気遣ってくれてありがとう。でもねもし少しでも引退したくない気持ちがあるなら引退しないで。私は頑張ってるあなたを好きになって支えたいと思って結婚したんだから。」
聞いている間に俺は涙がでてしまい、結局顔を上げることができなかった。
俺は妻に謝り、練習に復帰した。コーチは俺の顔を見るととてもおどろいた様で「もう引退すると思っていた」そう言った。俺は深々と頭を下げもう一度大会に出させてくださいと懇願した。コーチは「もちろんレジェンドが言うなら」と、次の世界予選に枠を儲けてくれた。感謝を告げ練習場に向かうと広い運動場に何人もの選手が高く配置された棒を飛び越しては柔らかいマットに深い音を立てダイブしていた。久しぶりの光景に胸が高鳴った。しかし大会後から数日練習しなかった体は、昔のようなしなやかさを失い飛ぶタイミングを忘れていた。それでも、あきらめず続けたが体の感の戻りが昔よりも遅いことに気づき年齢の限界を実感していた。俺は、絶望しかけたがその度に妻の事を思い出し踏ん張った。また、ニュースで吉田が他の大会でまた優勝し次は俺と同じ世界予選に来ることを知り不安になった。
「妻に誇れる最後がほしい」
大会当日、吉田はすぐに俺に話しかけてきた。
「先輩この大会出るんですね引退したかと思いました。」
「今回もよろしく頼むよ吉田くん。いい大会にしよう」
吉田は少しムッとしながら、去り際
「あの練習姿でいい大会にできるならどうぞ」
そう言った。
昔から吉田は口や性格は悪いが走り高跳びには真面目で注目選手は徹底的に調査するやつだった。俺のことをまだマークしていたのかと驚いたが、そういうやつだからこそのホープなんだろうと納得した。競技に入ると、歓声が聞こえ始め俺は胸が熱くなり今日は跳べるそんな気がした。
「2メートル34クリア!吉田、高橋激しいデッドヒート!」
大会終盤、俺と吉田は一騎打ちになった。二人とも跳べなかったら終わりの恐怖と緊張で限界だったが、次は前回吉田が世界記録に並んでみせた2メートル36だった。これで決着がつく俺はそう確信した。すると吉田が話しかけてきた、今はやめてくれと思ったが吉田は真剣な顔でこう言った。
「大会前、失礼なことを言ってしまってすいませんでした。正々堂々よろしくお願いします。」
そしてすぐ吉田は立ち去り自分の集中に入った。相変わらず真面目だと思いながらすぐに俺も集中した。そしてまず最初に吉田がとんだ。失敗。次に俺が跳んだが失敗した。
二回目も同じ結果だった。吉田は跳べない自分自身への怒りから「クソ」と叫んでいた。三回目、吉田は跳ぶタイミングをミスり僅かに棒が揺れ落ちてしまった。俺の番がやってきた、もしこれを失敗すれば天下りで吉田が優勝となる。俺は、妻の顔を思い浮かべさらなる集中をするため口元に人指し指を置いた。観客はそれを見て沈みかえり、会場には明るいライトとバーとマットがしんしんと浮かび上がった。俺は支えてくれたすべてに恩を返したいしたい。自分の思いを確かめ俺の体は助走を始めた。一歩また一歩体はスピードを溜めていく、世界を表す高い高いバーが迫ってきた。だが俺は一ミリの迷いもなくすべてを地球にぶつけ跳んだ。
「うおおおおおおおおおおおおお」
「レジェンド復活!奇跡の復活、まさにレジェンド!世界の記録に今日本人がまた並びました!高橋選手優勝です!」
放課後あいつのお墓を尋ねる
ある夕方親友のあいつは交通事故で死んだ。あいつが死んだとき俺は今と同じように少し冷えた空気の漂う土手の上の通学路から無味無臭の夕日を眺め下校していた。あいつは死ぬとき何を考えていたんだろう。
「ゆう先輩、お久しぶりです」
後ろから肩の小さい黒髪に焼けた肌の似合う後輩の智美に呼ばれ、表情を考えながら気さくに振り返って返事をした。
「先輩、これ以上先輩が辛くなるようなことはやめてください。私は先輩の味方です。」
「トモありがとう、でも大丈夫もう立ち直ったから」
バレないように完璧に返事をできたと思ったが、感の鋭いトモには見透かされてしまっていた。だが実際俺はあれからすでに少しは立ち直ってきてはいた、あと少しなんだ。それから俺は気を遣わせないように、昔のように二人でくだらない話をしながら家の近くまでトモを送った。別れ際トモは俺に体当たりを食らわしたあと、「心配してるのに、先輩のわからず屋ー」と吐き捨てながら手を振って家に向かっていった。それを呆然と見送ったあと俺は少し笑い、あいつの墓に向かった。
(本当にいい友達を持った。思い返せば死んだあいつもいい友達だったな...本当に...。)
そう心のなかで考えながら俺は雨風で歪んでしまった白いボーダーの上を歩いていた。瞬間、耳元でもう遅いと知らせるようなけたたましい轟音が響き俺の視界は宙を舞った。
「おーい裕貴起きろ。ゆっきー駅過ぎるぞー」
「うわああああああぁぁ......は?」
田舎を通る通勤時間なのに人がそれほど多くないのどかな電車の中で、俺は隣の車両の人間まで振り返るような奇声を上げた。隣で座る性格に似合わない柔らかく長い髪に透き通るような肌で制服姿のあいつは引きつった顔を浮かべたあと笑いをこらえながらそそくさと電車を降りていった。俺は何が起こったか分からず、あいつの後を追って電車を降りた。ホームの外に出ると大爆笑のあいつとよくわかっていなさげなトモが待っていた。
「あっせんぱぁ...ええええ先輩大丈夫ですか?」
トモに驚いたように顔を指差され俺はそこでようやく目から涙が次々溢れていることに気づいた。だが俺はなぜこんなに涙が出るのかわからなかった。ただ分かるのはその涙がとても暖かいことだった。
「ギャハハ号泣だこいつー」
「美幸先輩心配してあげてください」
「なんだコレ止まらない...」
「ゆっきー結局頭大丈夫だった?さっきネジ落ちてたけどあれゆっきーのじゃない?」
「あーそれ友達の非常事態に笑うクソ野郎のこめかみだわ」
「裕貴先輩も美幸先輩も仲良くしてくださいね」
何故か久しぶりに楽しいと感じる三人でのいつも通りの下校中、もう夕日が差しているというのにあいつはまた朝の話題を振ってきた。結局あいつはその日1日中何度もその話題で笑っていた。そんなあいつに辟易しているとトモがなにやらもじもじ言いにくそうに話しだした。
「先輩、もしかして誰かに振られたとかですか」
「えぇ全然違うよ。まじでわかんないんだよ。」
そこでトモは何故か安心したような顔をした。そして一つ間をおいて「前からお二人に聞きたかったことがあるんですけど」そう前置きを言いながら話した。
「二人ってお互いのことどう思ってるんですか」
俺とあいつは少し考えてから答えた。
「私はいい友達かな」
「俺は普通の友達」
「そうですか、すいません変なこと聞いちゃって」
俺達は何か気まずい雰囲気を取り繕い、そこからはまたくだらない話をして途中あいつが別れて帰った。
なぜだか冷や汗が止まらなかった。気味の悪い紫が含まれた夕日が横でボヤボヤと沈んでいく中、俺とトモは土手の上を一緒に歩いていると、トモは突然
「先輩今日うち来ませんか。今日実は親がいなくて…」
「え」
俺は冷えた風が流れる中、垂れる汗を拭いながらなんとか返事をした。
「先輩、私…」
「ちょっとまってくれ」
何かを忘れている気がする。俺はふと太陽の方を見た。その無味無臭の夕日を見たとき、俺はあの時の後悔が蘇り恐怖した。
「智美ちゃん、悪いこれ持っててくれ」
そう言って俺はすべてをかなぐり捨てて走り出そうとした。瞬間、俺はトモにおもいっきり腕を掴まれた。見るとトモは紫の夕日に照らされ不安げな顔で俺を見つめていた。俺はそれでも「ごめん。」そう言い、力づくで腕を振り払って走った。別れ際トモは
「本当にごめんなさい...頑張って。」
掠れるようにそういった。顔はよく見えなかった。
俺はもう後ほんの数分で沈んでしまう夕日を横目に冷たく硬いアスファルトを走った。足に伝わる衝撃が、無力さを嘆いた自分やこの世の無価値さを悟った自分を思い出させた。あいつが死んだのは夕方だった。もう遅いかもしれない。しかし、通る道すべてからあいつとの思い出が泡のように溢れ出て止まることはできなかった。一緒に水鉄砲で武装し、木陰でカードゲームをした、二人乗りの自転車で最寄りのスーパーまでゲームを買いに行った、それらすべてが夕日の影に触れては弾けて消されていった。もう後数秒で日が沈む。やめてくれ。美幸のいない世界は嫌だ。
そして事故現場の数メートル手前までついたとき、
「ドン」
と虚しい大きな音がした。
俺が駆け寄ると車は逃げ去りこめかみから血を流した美幸を見つけた。俺はすぐに119に電話をし救急車を頼んだ。
「美幸、美幸、美幸起きてくれ!頼む!」
「ゆっきー?どうしたの。頭痛い」
「喋っちゃだめだ、体力を温存しないと。」
頭がパニックでうまく働かなかった。
「あーあたし事故ちゃったんだ。」
「大丈夫助かる」
「これ私の血?どうしよう。」
「大丈夫だよ」
早く来いよ救急車
「ねえゆっきー」
やめてくれ
「裕貴」
やめてくれ
「ねえ」
美幸の血は冷たいアスファルトにどくどくと流れ出し、あたりを赤く染め上げていた、夕日はもうすでに沈み、終わりを告げるような紫が空を支配し始めていた。遠くからか弱いサイレンが近づく音が聞こえ、あれが到着すればすべてが終わる、俺はそんな気がした。俺には言わなくてはならないことがある。
言わなくて本当にごめん
「…」
「美幸、好きだった。」
「あたしも」
「ありがとう、本当にありがとう」
「...」
美幸は笑いながら俺の手を握った
定期的な電子音にアルコールのにおう少し硬いベッドの上で俺は目覚めた。トモがベッドに突っ伏しながら眠ってしまっていた。俺の顔からはまた、涙が溢れてしまっていたが、もうそれをいじる声は聞こえなかった。そしてもう一度「ありがとう」そっとそう言った。
お風呂から出ると
夜風にカーテンがゆらゆら
きらめく夜の街を眺め
君はタバコを吸う
煙が揺れては消えていく
君の背中は何処か儚い
だからこそ
消えてしまわないように
そっと抱きしめる
次書くメモ
成功した例だけが受け継がれていく世界
失敗は本人しか知らない
レイノルズ数を操る主人公
境界条件を設定し戦う