寝ても寝ても眠いにゃん

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2/24/2024, 11:10:04 PM

大嫌いなあいつの腹の中には赤子がいるらしい。


朝を迎えれば胃液が込み上げてきて、考えるだけで心臓は鼓動を増し、腸はぐつぐつと煮えくり返った。
そのくせ人様には愛嬌を振りまき、それなりの職に就き、"一般的な幸せ"とやらの定義に沿った生活をしている。
私の人生を掻き乱しておいて、のうのうと生きているあいつが憎くて堪らない。

家族は一人残らず他界、世話をしてくれる親戚などいなかった。大変だね、頑張ってね、とは言われるが手を差し伸べようとする者は一人もいない。
恋人もいないし、これといって仲の良い友人もいない。趣味もなければ仕事のやりがいもない。
もう、何もかもどうでも良かった。



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家にある包丁は切れ味が悪くなっていたので、某ショッピングセンターに行き新しいものを買った。
お陰様で貯まったポイントは、今日の夕食代に当てさせてもらおう。成功した暁には久しぶりに奮発してお寿司を食べるのもいいかもしれない。








何時何処にあいつがいるのか、私は既に把握していた。
後はさっき買ったあれを持って、実行するだけだ。

30メートルほど前にいるあいつは、片手に袋をぶら下げのんびりと歩いていた。白いトレーナーに黒色のジーパン。括った髪は少し高めで、一歩踏み出せば僅かに揺れる。
でもそんなことはどうでもよかった。
狙うは腹一択。



少しだけ歩く速度を早め、頭の中に流れていた音楽は昔の記憶へと変わった。
確かに存在した家族との記憶が曖昧になっていることに気がつき複雑な心境になったが、これから手を下せることが有頂天外の喜びである故に、どうでも良くなった。
やっと、やっと私は幸せになれる。











一度目は大きく。全身全霊を込めて、突き刺した。
抜いた途端に血がこぽこぽと流れ、その存在を主張している。
二度目は同じ箇所をもう一度。腹の中で包丁を三回転ほどさせると、中身がグロテスクな音を立てているのが分かった。
そして心臓と同じ拍で、血が零れている。


あいつの白いトレーナーは粘質な血のおかげで紅色に染まる。純粋にそっちの方が似合っていると思った。先程まで持っていた袋は地面に落ち、中身が少しだけ零れていた。ちらりと林檎が見え、素敵な紅だと思った。




「小さな命」

2/24/2024, 6:32:16 AM

貴方を愛していると、言いたかった。

降ってくる雨水が1万円札になるのは妄想の世界での話で、恋が叶うとかそういうのは同じように妄想の世界での話である。
本当は今すぐにこの飽和している想いを伝えたいのだが、貴方には大切な大切な恋人がいると聞いている。
ある程度の常識はわきまえているつもりなので、到底伝える予定は無いが、明日隕石が落ちてきて皆木っ端微塵になりますと言われれば伝えなくもない。だけどこれも妄想の世界での話なので、伝える日はきっと来ない。



私だけが知っていればいい。
私の中にだけ、ゆらゆらと煌めく蝋燭の火のように灯しておけばいい。
皆に内緒のこの気持ちは、たまに屑で、たまに宝物。


「Love you」

2/22/2024, 2:07:51 PM

君が太陽で僕が月だとか、そんな薄っぺらい歌詞はどうでもいい。
お互いに照らして、照らされて。
時には黒々しい夜となり、瑞々しい朝が来る。
ただ、愛し合っていれば良かった。
ありきたりな比喩は分からなくて、ただ好きと言う感情だけが渦を巻くように二人を包む。
暖かな光が降り注ぐこの部屋で、カーテンがふわふわと踊るこの部屋で。僕らはそっと口付けを交わした。

「太陽のような」

2/21/2024, 2:17:40 PM

もう、充分だった。
生きていくにはあまりにも窮屈すぎるこの世界で、どれだけ足掻いただろうか。
一冊にはまとめられないほどの悲劇、悲劇、悲劇。
微かに見えた希望も、瞬きをしている間に消えてゆく。
来世では、普通の幸せを得ることができるだろうか。



あと一歩踏み出せば、森羅万象に終わりを告げる。
下を見れば鬱陶しいほどに煌めく川と、青々と茂る木々。
生きようとする本能とは逆に、清々しい気持ちで胸がいっぱいだった。





肋が大きく広がり新鮮な空気を肺に詰め込む。
柵に手をかけて、乗り越える。
ゆっくりと目を瞑って、重力に従う。
今までの不幸は全て来世のためにあったのだと、そう信じて。

ここからが0からのスタートだ!




「0からの」

2/21/2024, 4:52:28 AM

同情なんかされても意味がない。
君が私のことを好きになってくれなきゃ。

「同情」

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