枯葉が季節の移ろいと共に宙を舞う。
彼と別れてもう何度目の冬だろうか。
いつまで経っても寂しさには慣れず、心にはぽっかりと穴が空いたまま。
ふとした瞬間に、彼との記憶が私の中を駆け巡り全身を暑くさせる。
18年前の今日。彼は震災により、この世を去った。
自然というものは恐ろしくて、瞬きをする間にも全てを崩し、飲み込んだ。
人はいつか星になることは分かっていたけれど、到底受け入れられない別れだった。
あまりにも急で、あまりにも残酷なあの時を私は死んでも忘れない。
随分と良くなった街並みを眺めながら、アスファルトを踏みしめる。
地面にうっすらと乗っている枯葉を踏みしめ、その音と感触を覚えるように神経を張り巡らせる。
そういえば、枯葉は木を守るためにあると聞いたことがある。冬を越すために、木が枯れてしまわないように。
彼は、枯葉のように思えた。
呆気なく散った。
けれど、冬を越せるようにと、どうにか踏ん張れるようにと、沢山の思い出を残してくれた。
確かに彼は存在した。
確かに私の心を温めた。
愛した人の分まで、ちゃんと___ 。
「枯葉」
じわじわと視界に膜が貼られてゆく。
不規則な心臓と血液の流れる音が、頭を駆け巡る。
ようやく終わるんだ、と、ほっとする気持ちが私を温める。
この結末を選んだことに後悔はない。
今日と、自分に、永遠のさよならを。
「今日にさよなら」
苦いコーヒーに苦いチョコレート。
舌を溶かして口を満たす大人な味が堪らない。
3時に頬張るものは、苦いのが好き。
だけど君との時間はずっとずっと甘いのがいい。
苦いのも甘いのも、私のお気に入り。
「お気に入り」
誰よりも賢かった君。
聞けば何だって答えてくれて、導き方も何度だって説明してくれたのに。
「あのさ、君の1番って、教えてくれたりする?」
ただひたすらに深い沈黙が。
ただひたすらに詰まる喉が。
ただひたすらに、そのどれもが、何もかもが。
顔が赤く塗られる。
小刻みに揺れる足に、ふやけそうな手。
付いている耳は鼓膜が破れている様な。
全身に響く重低音が一定のリズムで体に刻まれてゆく。
目の前にいる君は耳を触った。
難しい問題を解いている時と、おなじ。
「誰よりも」
10年前の私へ。
歳を重ねた私も、夏が大嫌いで怠け者で無駄に気にしすぎる性格のまま生きています。
時には0になりたいと、煌めくあれになりたいと、考えることもありますが、どうにか這いつくばって生きています。
一つ、過度な期待はしないで自分を信じなさい。
二つ、黒真珠のような瞳は本当に好きな人にだけ見せること。
三つ、いつかお迎えが来るのですから限界を迎えそうな感情は我慢せずに伝えなさい。
海月のように、ただひたすらに浮いていればいいのです。足元の幸福を歓喜しつつ、この世の理不尽に憤慨しつつ、その場で足踏みでもしていればいいのです。
どうか、純粋な鼓動を忘れないで。
「10年後の私から届いた手紙」