小さな葉っぱ

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5/2/2023, 6:18:14 AM

 そのピンクのギターはやたらと目に付いた。
 まだ出会ったばかりで、彼女の愛器を見た事がなかったのもある。
 彼女の巻き髪は綺麗な黒色であったし、メイド服を思わせるこれまた黒い服装も相まって、事務所のロビーで軽い調整が行われている突然のパステルカラーに、少しばかり驚いてしまった。

「あ、おはようございますにゃん」

 こちらに気づき、あはっと八重歯を覗かせた元気の良い笑顔が彼を迎える。

「よお。そいつがお前の相棒かー。結構イカすデザインしてんじゃねえか」

 ハート型のギターというのは、見るからにカワイイものが好きそうな彼女にはピッタリだ。
 ソファーへ近づき声を掛けると、彼女は大切そうにギターの面を一撫でして目を細めた。

「良かったにゃんイチゴちゃん、先輩に褒められたにゃ!」

 まるで人へ話し掛けるような口調に、少し不思議な子だなあ、と頭の片隅で考える。しかしその純粋さこそが、ファンやメンバーの心を良い意味で解きほぐす魅力なのだろう。

「うっし」

 パシッと、拳を掌に当てた彼は思い付いた妙案を口に出す。

「今度オレ様の相棒も見せてやるぜ!」
「え、良いんですかにゃ?」

 期待に心が疼いた事の表れか、彼女の猫耳がピンと立つ。

「カッコよすぎて腰抜かすなよ?」

 歯を閉じたキシシという笑みを寄越すと、彼女は目を輝かせて興奮した様子を見せる。

「嬉しいです! その約束忘れないでくださいにゃ!?」
「って言っても、二日後のライブをこなした後になるけどな。期待して待ってやがれ!」

 漫画ならば頭から音符が流れ出そうなテンションで黄色い声を上げる彼女。
 ふと合った目の色にどきりと心臓が大きく揺れる。ものの価値なんて分からないが、その瞳は磨き上げられた宝石と同じ美しさを秘めていた。
 思わず逸らしてしまう。
 新たに見つけた緑がかったその青色にも、心が不可思議な音を鳴らしながら驚いていた。

5/1/2023, 5:32:58 AM

『あんたの居る場所がそうだ』
 なんて告げても、またキザな事を言っていると彼女は笑うだろうか。
 星の子たちの安住の地を本当に作り上げた彼女だから、こんな陳腐な言葉一つでは靡かないとは思う。
「けど、本当に、そう思っちまってるみたいだ……」
 彼女と出会ってから増えた、一人で星を見上げる時間。
 自然と零れ出た言葉に自分自身で驚く。
 興奮した鼓動を収めるべく星見に集中しようとすると、瞬く星々の一つ一つが彼女の微笑みに見えた。
 やっぱり遠い、薄汚い自分に美しい彼女は。
 なのに、燃え上がって来る感情を逃がす場所が全く分からない。
 やめられない星見も、彼女への思いも、見果てぬ楽園の住人のようで掴めない。
 適当に結ぶ星の中心を見る。それと同時に楽園の女神へ、蹴りの付かない思いを馳せた。


(おわり)

4/28/2023, 2:54:20 PM

※三次元(くじらのひとの黒迷さん)注意
※BLではありません
※結成前のお二人


 刹那の速さで心を穿った。
 普段他者のネタになど興味のない吉田だが、舞台袖での待機中には前出番の者のネタを見る事はある。
 今日は同期の小杉が組んでいるコンビが自分たちより一つ前の出番だった。
 そこで見た、聞いた、あまりに器用で技術点も芸術点も高いツッコミ。
 穿かれた穴には魅力が詰め込まれる。一秒先では既に、芸人らしからぬ真面目な顔をして彼のフレーズへ聞き耳を立てる自分が居た。


(おわり)

4/27/2023, 12:39:29 PM

※二次創作
※SB69よりクロシア


「みんなで音を楽しむ為! 音楽がなくなったらプラズマジカもあたしもなくなっちゃうにゃん」
「うっし、そう言ってこそバンドマンだぜ!」
 心の何処かでは自分と一緒に居る事と答えてはくれないかとちょっとだけ思っていた。
 でも、自分の心を掴んで離さないのは音楽バカな彼女だから。そう答えるとは分かっていたし、そう答えて欲しかった。
 歌声の魔法はこれからも解けない。
 ――ステージで歌い続ける彼女の姿が、絶対的に一番好きだから。


(おわり)

4/26/2023, 5:30:45 AM

※二次創作
※ワルロゼ(ワルイージ×ロゼッタ)


 流星群を一緒に見たいと誘った相手は、泥臭い男である自分には手の届かない綺羅星の筈なのに。
 彼女は胸の前で手を組んで感激した様子を見せ、三日月型に細めた目をして笑った。
 付き合ってもいないのにどちらかの家(彼女の場合は天文台)で、という訳にはいかない。
 当日の夜、キノコタウン付近の丘へ集った二人は挨拶もそこそこに、幾筋もの星が零れ落ちる空を見上げた。

「再びこの蒼い星から流れ星を見られたらと、ずっと夢見ていたのです」

 見目好い姿からかもし出されるように、やはり何処か秘密を抱える身の上らしい。
 自分が知るのはファミリーの一人としてカートやスポーツに打ち込む様相と、星の子への母性のみ。でも、一つだけ言える事があるとすれば。
 ――どんな彼女だって、悪党の自分から見れば全てが眩しい宝石だ。

 ふと、隣の彼女を盗み見る。
 両手を組み、長い睫毛の生え揃った瞼を閉じ、祈りの体勢を取っていた。
 女神――と頭に漠然と浮かんで思わず息を呑む。
 体勢を解き、こちらに気づいた彼女が一歩距離を詰めた。
 綺麗な瞳と柔らかそうな唇との距離が近づき、心臓が高ぶった音を鳴らす。

「改めて、お誘いくださってありがとうございます。天の川で身を清めるような素晴らしい思いをしました」
「い、いや、気にすんな別に。と、ところでなに祈ってたんだ?」

 どぎまぎとした己を誤魔化す形で彼は質問した。
 彼女は少し眉を釣り下げた困った笑みを見せ、小さく肩を揺らす。

「ごめんなさい、言ってしまうと叶わなくなってしまうので」
「お、おうそうだな。もう少し、見てくか」
「そうですね」

 やたら熱い顔が赤くなっていたらと思うと見せられやしない。
 取り繕うように再び夜空を見上げる。

「また、見せてやるよ、こういう日があったら……」
「まあ、嬉しいですね」

 寄越した言葉はぼそりとしていたのに、彼女はしっかり拾っていたようだ。
 今度はバレたくないので、目線だけを動かして様子を窺う。
 彼女の碧色の瞳に流星が走り、温かな光を放つ。
 夜が似合うのにやはり眩しい人だと、彼は心の何処かで敵わないと負けた気分になった。
 なのに何故だか清々しいのは、彼女が着ている涼しい色のドレスのせいだとキザな言い訳をした。


(おわり)

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