そのピンクのギターはやたらと目に付いた。
まだ出会ったばかりで、彼女の愛器を見た事がなかったのもある。
彼女の巻き髪は綺麗な黒色であったし、メイド服を思わせるこれまた黒い服装も相まって、事務所のロビーで軽い調整が行われている突然のパステルカラーに、少しばかり驚いてしまった。
「あ、おはようございますにゃん」
こちらに気づき、あはっと八重歯を覗かせた元気の良い笑顔が彼を迎える。
「よお。そいつがお前の相棒かー。結構イカすデザインしてんじゃねえか」
ハート型のギターというのは、見るからにカワイイものが好きそうな彼女にはピッタリだ。
ソファーへ近づき声を掛けると、彼女は大切そうにギターの面を一撫でして目を細めた。
「良かったにゃんイチゴちゃん、先輩に褒められたにゃ!」
まるで人へ話し掛けるような口調に、少し不思議な子だなあ、と頭の片隅で考える。しかしその純粋さこそが、ファンやメンバーの心を良い意味で解きほぐす魅力なのだろう。
「うっし」
パシッと、拳を掌に当てた彼は思い付いた妙案を口に出す。
「今度オレ様の相棒も見せてやるぜ!」
「え、良いんですかにゃ?」
期待に心が疼いた事の表れか、彼女の猫耳がピンと立つ。
「カッコよすぎて腰抜かすなよ?」
歯を閉じたキシシという笑みを寄越すと、彼女は目を輝かせて興奮した様子を見せる。
「嬉しいです! その約束忘れないでくださいにゃ!?」
「って言っても、二日後のライブをこなした後になるけどな。期待して待ってやがれ!」
漫画ならば頭から音符が流れ出そうなテンションで黄色い声を上げる彼女。
ふと合った目の色にどきりと心臓が大きく揺れる。ものの価値なんて分からないが、その瞳は磨き上げられた宝石と同じ美しさを秘めていた。
思わず逸らしてしまう。
新たに見つけた緑がかったその青色にも、心が不可思議な音を鳴らしながら驚いていた。
5/2/2023, 6:18:14 AM